2014年8月3〜4日

 「喰いしん坊二輪旅」なんてタイトルだから、食って遊んでばかりの話だろう、と思ってる皆様、そうは問屋が卸しませんぞ。このページでは少しばかり、モノ作りのウンチクをたれるのです。


飯田の夜。


 ベンツの車内には、革の加工場とレザーグッズ工房のそれぞれ代表と私、そして半ズボンを履いた部外者の古山が乗っている。着いたのは飯田市内の炭火焼の店“嘉藤治(かとうじ)”。
 店内の座敷に入ると名刺交換が始まる。もちろん何度もお会いしている私とではなく、古山と。
 古山も古山で名刺だけは持ってきたようで、二人の代表はキョトンとしている。そりゃそうだ、まったく関係のない他社の名刺なのだから。
 まあ飲んでしまえば(がっしりとした体育系のレザーグッズ工房代表はまったく飲めない)、仕事とは無関係の他愛のない話で酒がすすむ。「あそこの店は旨いカエルを食わせるに」「あのスーパーは蜂の巣をまるごと売っとる」「カイコの幼虫はどうもなあ」「あれは鯉のエサさぁ」などなどゲテモノ系食いもん。このサイトのタイトルを知ってるわけでもないのに。。。


信州牛に馬刺しに山女(やまめ)の塩焼きetc・・・ご馳走様でした。


 酒が入り真っ赤な顔した半ズボンの古山が、地元のお二人の代表を差し置いて店を出る。そしてベンツでホテルまで送っていただく。さて明日の午前中はお二人の会社を訪問して仕事の打ち合わせだあ・・・これも古山は無関係だがねえ。




気にしない気にしない。


ホテルの部屋から南アルプス方面を望む。雲ばかりで怪しい天候である。

 朝9時に革加工場に伺うので、バイク2台はその15分前にホテルを出発する。


 私を先頭にホテルから道路に出る時、スクーターのオバちゃんが右から坂道を下ってきた。強引に進めばオバちゃんはパニックブレーキで転けるかもしれないと自重した。その瞬間である、

 ガッシャッ!

 やな予感がして振り返れば、古山と新車VFRが横たわっている。坂道のため二人ががりでVFRを起こす。サイドバッグのおかげでバイクのダメージはたいしたことないが、小さなキズがあちこち、そしてシフトレバーが曲がった。“もうこの世が終わった”かのような表情の古山に、「気にすんな、そんなキズ、俺には見えねえよ」と慰めるが、指さして言ったものだから説得力なし。もっと気の利いた言葉はないものか・・・というより、しまったぁ、カメラを持ってるのに、転けた瞬間を撮るのを忘れたぁ!(やな性格)。





馬の「皮」を「革」にする工場。


体格のいい社長に迎えられて工場に着く。



応接室でさまざまな馬革のサンプルを見て触れて検討中。
 工場入り口に「車進入禁止」とあるがバイクだから良いのだろう、と思うほど私はヘソ曲がりではなく、ここの社長がどうぞ、と言うものだから工場内に停めさせていただく。そして応接室で今後の新たな馬革の打ち合わせ。もちろん部外者の古山も同席して。

 いままで「革の加工場」と書いていたが、会社名は宮内産業さん。社員100名ほどのタンナー、馬や牛をメインにいわゆる「皮」から「革」へと加工する工場である。では「皮」と「革」の違いを簡単に説明しよう。

 皮のままでは干からびたり腐ったりしてしまう。なので“鞣し(なめし)”という加工を経て革となる。そして弊社のような工房に送られ、製品となる。だから「皮ジャン」ではなく「革ジャン」なのですぞ。でも「毛皮」という言葉は皮を常用しているが、ほんとは「毛革」ではなかろうかと。毛皮じゃあ腐ってしまうもの。

 さてこのページをご覧になっている皆さまは実に運がいい。今回は特別にこの工場の“鞣し(なめし)”行程を写真付でご案内しよう。特にコードバン(馬の最高級部位)の行程写真など、めったにお目にかかれるものではない。なんたってコードバンの鞣し会社は日本全国に2社か3社、それしかないのだから。
 「革」になるまでには、多大な時間と手間が掛けられている。しかしご案内は専門用語を極力使わず、かなり簡略化するけど、きっと理解していただけるはずである。


・・・工場見学

 今回は時間がなく工場内の作業場には行けなかったので、同年5月の訪問時の写真で解説しよう。なのでバイクは同じワインレッドだが我がGSFではなく、お借りしたホンダCB1100EXである。

いいですなあ、この言葉。これは近所の小学校の標語を引用したそうな。ちょっとキズがついたくらいで「まけるな」よ古山。 これは社長の提案で書かれたものだが、社内スタッフから「今は品質が悪いのか」とくらったそう。なおCBは偶然に写っているだけで他意はなし。




 工場のいちばん奥には巨大な容器がずらりと並んでいる。これが“鞣し(なめし)” および染色行程。
 この容器の中に「皮」を入れ、時おりグルグルと回しながら3〜5日、時には1週間掛けて「革」となる。これはタイマーにより、24時間動いている。そして厚さ等の加工を経て、またこの容器を使って染色する。ここまでの行程だけでも、かな〜り長い。弊社ペアスロープの革ジャン用馬革、そして革の王様コードバンもここから誕生しているのだ。

 ところでなぜCB1100EXが、そして馬じジャンを着てモデルみたいにカッコつけた男がここにいるのかと申せば、弊社カタログやサイト用のイメージカットを撮っていたからである。2014年の9月中旬に公表予定だから、このページ送信の8月中旬では、そのドラマチックな写真をお見せできないのが残念ですな。


これはすでに鞣し(なめし)を終えた革。


染色を待つコードバン。


厚さや表面処理の行程。


出荷待ちの美しく仕上げられたコードバン。

 ほんとは、まださまざまな作業行程があるけど、まあこのくらいにしておきましょう。
 ま、言いたいことは、弊社工房で革ジャンを仕立て上げるのに20時間以上掛かるが、その材料の「革」を作るのには、もっと手間や時間を要するということ。簡単なことじゃあないのですよ。



・・・サクラ組 修一君

 先ほどから、ちらりちらりと写っていたのが、弊社革ジャンモデルに抜擢した牧野修一君である。しかし本業はモデルではなく美容師。「俺は飯田じゃ人気の美容師だにぃ」と、自分で言うのはあつかましいが、確かにその容姿としゃべり、そしてハサミさばきからして、人気の美容師なのだろう。

 私との付き合いは2004年頃からの飲み仲間。当時は東京の美容院で修行し、時おり弊社の革ジャンモデルで撮影していたが、まもなく飯田市内の実家に戻り、「ヘアーサクラ」で頑張っている。
 なお、ヘアーサクラの一階は両親の理容店・美容院で、その二階が修一君の美容院。あの宮内産業さんの社長も一階のお客さんである。

修一君担当の店内。お客さんの前のブラインドを開けると、イメージは「海」だそうだ。田んぼだけど。 よくしゃべり、よく笑う、ゆる〜いキャラなのだ。こんど飯田に行ったら、俺のカミ、よろしく。

[ ヘアー サクラ ] 飯田周辺の皆さま、そしてツーリングがてらに、修一君にカミを整えてもらっては。人気者なので予約はとりづらいけど、タイミングが合えばどうぞ。
飯田市松尾城5054-2 TEL 0265-24-7318 ※予約は牧野修一君まで。

参考までに修一君のプロモーション映像がある(自分の店にて)。

 HAIR SAKURA /Shuichi PV >>

    ・・・ちょっとカッコつけすぎじゃねえかい?。






せっかくだから、やっぱりお見せしよう。。。



 2014年5月某日、この工場のでっかい鞣し(なめし)容器の前で撮った写真を、ほんの少しばかりお見せしようと思う。だって、修一君の話まで引っ張っておいてスン止めでは申し訳なかろう。でもこのページ送信日の8月中旬時点では、かなりのフライングなのだが。

 写真は「硬い顔すんじゃないよ、笑っちゃあだめだぞ、つまんない顔しなさんな、、、etc」と私がモデルの修一君に気合いを入れてるところ。「じゃあ、どんな顔すればいいっつらぁ」って、そんなの俺が分かるわけねえじゃん、自分で考えな、ってところ。けっこうアバウトなのだ。
 ではほんとに少しだけ、、、。







PHOTO:坂上修造



この工場が馬ジャンの原点






ワインレッドが男を引き立てる





ジェントルである




 ど〜です、なかなかのもんでしょう。この工場で加工された馬の革ジャンをとっかえひっかえ10着ほど撮影。そのつど修一君いわく「これほしい」「あっ、これもほしい」・・・軽く柔らかな馬ジャン(※品名に『sh』がつく)の着心地に感激の牧野修一であった。




[ここだけの話、その2] ・・・馬ジャン
ここ宮内産業さんはヨーロッパから月平均500頭分の皮を仕入れているそうだ。しかし馬革は牛革と比較してかなりキズが多く、キズの少ないAランクはせいぜい15〜20%、100頭分もない。その他のB・C・Dランクが大半なのだ。

月によっては、そのAランク革のほとんどを弊社ペアスロープに融通していただく。それはそれでありがたいことなのだが、昨年(2013年)から比べて、円安の影響、そして馬の皮の流通が少ないこともあり、徐々に値が上がっている。
弊社としても2014年秋からの新作馬ジャンの価格は春と同価格で維持しようと頑張るが、2015年(or2014年の末?)からは、無理があると判断している。
今でしょ(2014年の秋でしょ)、馬ジャンを手に入れるのは・・・今なら牛革とさほど変わらぬ価格です。(※ソフトホース馬ジャンは『sh』の記号がつく)

なお、B・C・Dランクの馬革で、なにか優秀な製品が作れないか、宮内産業さんと現在検討中。その名は「ワイルドホース」(あっ言っちゃった、超フライング)。試作品ができたら、ご案内しましょう。

※宮内産業さんは革の小売りはしておりません。ご了承ください。
※馬ジャンアイテムは2014年9月10日頃に公表します




 さて、魂のこもった馬革の話もこのくらいにして、次は素晴らしいアクセサリーグッズを作る工房に向かおう。「まけるな」、VFR。


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