◆鹿革…魔性の使い心地

柔軟性と耐久性、そして粘り強さからの引き裂き強度にも優れ、水に濡れても傷まず、吸汗性が良く汗をかいてもべたつきにくい…と羅列すると良いことばかりの、グローブに最適な素材。その使用感は、一度使うと虜になってしまうほどで、3シーズン、メッシュ、防寒のグローブを全て鹿で揃えてしまうお客様も少なくない。

しかしながら、鹿は革が小さい上、行動的な動物でケガが多く革にもその傷が残るため、大きな傷を避けてパーツを裁断するにはロスを伴う。まして流通量が極端に少ないことから、牛に比べ生産効率が圧倒的に不利。結果として高価になってしまう。

ただし、優秀な耐久性により、牛革モデルとの差額程度は十分に回収が可能でもある。弱点はあれど、それを補って余りある利点を持っている実に悩ましい素材なのだ。


◆「ニュージーランド産鹿」と「信州鹿」のちがい

結論から申せば、柔軟性も強度もほぼ同じ。ちがうのは「ニュージーランド産は放牧の鹿」、「信州鹿は野性」。そしてその革、ニュージーランド産は放牧ゆえに大きさがある程度そろっているのに対し、野性の信州鹿のサイズはバラバラ。そもそも鹿革は高価な上に、小さめでサイズがそろわない信州鹿のほうがロスは多い。

なお、どちらも使用感においては高い伸縮性だけでなく、手に吸い付くような自然な使い心地が得られ、馴染んだ際には素手に近いと表現しても過言ではない繊細なタッチとなる。


◆ニュージーランド産鹿革

鹿屋島ショート/ロングには全面、うましかSPの本体、に用いる鹿革。奈良県でなめされ、香川県の工房で裁断縫製されるペアスロープ製鹿革グローブのメイン素材である。

良好な装着感は極めて快適性に優れ、長時間走行時も疲れにくいことから、一度鹿革のグローブを使うと離れられなくなってしまうオーナーが多数。結果、現在は牛革グローブよりも販売数が多くなってしまっている。
◆信州の鹿革

2024年の春から初登場。
信州鹿は小さな個体が多く、ショートグローブでも1頭で1双しか作れない。しかも入手が不安定。
なので当初販売製品はショートとロングの2色2種しか作ることができない。

野性ならではの小さなキズは、捜せばどこかの部位にあることを承知いただきたい。それは野山を元気に走り回っていた証拠でもあり、革には信州の爽やかな高原の香りがする……ような気がする。
鹿革がグローブに適している一番の資質は、伸縮性に秀でていること。こぶしを握ればグッと広がり、開けばスッと戻る。この性質がバイクの操作に都合がいいのだ。また、横方向に広がるのでサイズの対応範囲が広い。同じ作り・サイズのグローブで牛革だときつい人でも、鹿革だと大丈夫なことが多いのはこのためである。



◆鹿革と馬革の共演

◆馬鹿(うましか)

鹿革製の本体各部に馬革の補強を施したため「馬鹿」という名になったが、実際は真面目な優等生。

鹿革のみのモデルと比較すると、馬革パッドによる強度アップと、しっかりした装着感を得られることが特徴。一方で、パッドの存在で横伸びが制限されるため、自然な使い心地はシンプルなモデルに分がある。

また、パッド部分の複雑な縫製やくり抜きネーム等の豪華な仕上がりを有し、製作にはシンプルな製品の比にならない時間を費やすにもかかわらず価格差はわずかであり、大変お買い得感のある製品になっている。
鹿革には、銀面(ぎんめん)と呼ぶ革の表面が摩擦で毛羽立ちやすい性質がある。そこで、グローブの擦れやすい部分に薄手で銀面強度の高い馬革をあしらうのは合理的な組み合わせである。パッド部分には切り込みやホールを設けることで、極力違和感の少ない構造としている。