Text:H.Mitsuhashi


2022年から始まった“夫婦坂旅倶楽部”の第3回は、
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷の、それはそれは癒やされる温泉宿 “槍見舘” さん。
ここには2014年の取材で訪れているのだが、
筆者のカミさんもお気に入りで、翌年予約を入れるも満室で断念。
この宿は人気があり、
あれよあれよと今回の企画で10年ぶりの訪問となる。

 「また泊りに行きたくなる温泉宿」 ……貸切りでご案内します。

とはいえ、第1回の“高峰温泉”さん、第2回の“法師温泉 長寿館”さんも同じく、
槍見舘さんも 「貸切りはしません!」 と宣言している温泉宿です。
それを承知の上で失礼ながら 「そこんところなにとぞ……」
と半年かけて電話で頭を下げつつお願いし続けたわけでして、、、。

さて、以下の筆者の紀行文を読んで、
「ここは行かねば人生の損だ!」 と感じたら、どうぞご参加を。
でもマナーを守っていただける方に限ります。
奥飛騨の静か~な温泉宿ですから、、、。











[2014年10月の訪問記より再編集]



カミさん連れて……

 雨だ、せっかくの旅なのにがっかりだ……誰だってテンション下がる。しかし目的が温泉宿となればそう落ち込むこともなかろう。雨でも極上の湯と料理と酒が待っているのだから。

 とある日、伊豆の温泉宿 “山芳園(さんぽうえん)” の主人から推薦されたのは、岐阜県奥飛騨にある新穂高温泉の源泉宿“槍見舘”。もうちょっと近い宿を紹介してよ、と思うも、この企画はどこに行くのか、温泉宿の主人まかせなので仕方がない。
 今回はあの伊豆の湯が私の古傷を和らげてくれたのを思い出し、1年前に(立ち転けで)骨折していまだに痛むというカミさんを連れてゆく。足を楽にしてあげるのだ。
 先日、通院しているカミさんが病院の主治医に言われたそうだ。
「近代治療はこのへんまで。これからは温泉療養も試してみなさい」 ……と。







 東京から中央高速道路で西へと向かい、長野県と岐阜県の県境の美しい風景を楽しんでいると、いつまにか奥飛騨に着いている。
 槍見舘は北アルプスの山々から流れる清らかなな鎌田川沿いにポツンとある一軒宿だ。晴れた日には、日本のマッターホルンとも呼ばれる標高3180 mの槍ヶ岳が、天に向けた槍のごとく現れる。といっても今日の雨では無理だろう。明日に期待。

 さてメインの温泉話はあとにするとして、とはいえ、こちらがメインだと思う輩もおられるだろう宿の食事から話を進めよう。

宿に着くなり浴衣に着がえて、まずはビール・・・これ、筆者の基本中の基本。


※2014年訪問時の「秋」の料理・・・別注品もまざっているが、標準料理で十分だと思う。(しかし筆者の場合、「岩魚の骨酒」は外せないわけでして)

 せっかく来たのだからと、飛騨牛朴葉味噌ステーキと漬物ステーキを別注した。しかし食事処にはもう一品、美しい色合いの牛肉があった。よくあるんだな、取材だからと豪勢な食材がサービスされること。
 すかさず宿のスタッフ氏に「すみません、これ、頼んでないのですがぁ」と言えば、「いや、これは部屋の料金に関係のない通常メニューで、A5等級の飛騨牛です」。……し、しまったぁ、温泉のことばかり予習して、料理のことはろくに調べず来てしまった。それにしてもなんとまあ豪勢なこと。なお、この宿は奥飛騨地域でも数軒しかない「飛騨牛料理指定店」と聞く。





主人に話を聞いてみる……

 食事の最中にやって来たのは槍見舘の主人。もう見るからに、そして話し方も紳士そのもので、いっしょに生ビールを飲み、そして語り始める。

 ここの湯の泉質名は“単純温泉”だ。私は以前から思っていたことだが、“単純”という名称ではなく、もっと気の利いた呼び方があるんじゃないかと。そんなことを主人に話す。
「そ~うなんですよ、“単純”なんて言葉、なんだか効果がないように思われますよね、実際はそうじゃないのだけど……」
 単純温泉は成分濃度が薄めだ。しかし濃い温泉と違って肌に優しく、幼児やご老人も安心して浸かれ、最も湯あたりしにくい泉質、という利点がある。それに薄めと言っても、家庭の風呂に入れる入浴剤の数倍もの濃さなのだから、あくまでも他の泉質との数値の差だ。それは〝溶存物質〟という数値を巻末に記載しているので参考に。ちなみに1000mg/kg未満が単純温泉。おっと、話が泉質のほうに少々それてしまったので戻そう。









 主人は高山市出身で3代目の女将と結婚し29歳で旅館業を継ぐ。だがその頃は今の旅館の姿ではない。
「まずは川沿いの露天風呂から手を入れました。もともと大きな石がごろごろとありましてね、建設重機の免許を取って造りました。セメントを百袋買ってね」
 あの槍見の湯のドでかい石を並べるのは、さぞたいへんだったろう。カミさんと浸かった時、あまりにも自然で気づかなかったが、そんなうまい具合に天然石の露天風呂があるわけがない。さらに宿自体にも大幅に手を加える。古民家を移築したり、内外装をこつこつと思いのままに。
「宿ってね、温泉、食事、建物、の三拍子が揃わないといけないと思うのですよ、お客様からおカネを頂いてるのですからね」
 そう、お客だってそれらを期待して遠くから足を運ぶのだ。しかしその三拍子ってのは簡単なことではない。特に人の手で自由にはならない温泉。ここは加水・加温なしの源泉かけ流し、しかも自家源泉を持つが、それは全国的にもごく少数派なのだ。それなのに主人は温泉の自慢話をしない。きっとそれは、この宿にとって空気みたいなものなのだろう。
 そしてもうひとつ感じたのは、お客への「おもてなし」。主人自ら先頭に立って案内していることもそうだが、チェックアウトまでとことん楽しませる姿勢がうかがえる。それが朝食後の餅つきだ。


朝食後のつきたての餅だが、これは別腹。やはりウマイ!



 槍見舘には、混浴、男女別、貸切、女性専用など九つの風呂がある。そのうちの五つに浸かった。
槍見舘を推薦した伊豆の山芳園主人の言うとおりだった。肌に優しい柔らかいお湯、ちょうどよい湯温、そして清流のせせらぎの音とともに、周りの風景を楽しみながらのんびりと浸かっていられる。これで癒やされない者など、よほどのヘソ曲がりか。
 奥飛騨に来て3日目の朝、カミさんも私も足を踏ん張って餅つきをしていた。そう、すっかり足の痛みなど忘れて。恐るべし、温泉効果! ……身も心もすっきりと癒やされていた。



※混浴露天風呂「槍見の湯」:AM 7~9時女性専用時間。(その他の時間:専用の湯あみ着を借用可)




20214年の頃は黒い頭ですが、現在は白っぽくなりまして……



新穂高温泉 槍見舘
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷神坂587   TEL 0578-89-2808
●古き良き時代の古民家を移築した風情漂う館内には落ち着きあり。
内風呂、混浴露天風呂、貸切風呂、足湯と数多いので混雑することはなく、ゆったりと湯に浸かれるのが特長。
●宿泊料金:1人平日21,050円~(2名1室の税込)。全15室。
 
※夫婦坂旅俱楽部の料金は異なります。
●立寄り入浴:露天風呂 500円、貸切風呂 1000円

[湯] 単純温泉
源泉本数:1 掘削動力揚湯 自家源泉 
総湧出量:510L/分 源泉温度:55.4℃ pH6.8 中性 溶存物質:533mg/kg
源泉かけ流し 加水なし・加温なし
(その他組合共同源泉あり:炭酸水素塩泉)
浴室:混浴露天 2(女性時間あり)・内湯 1(男女別)・貸切風呂 4・客室風呂 3

[宿データ] 2024年1月現在

公式サイト https://yarimikan.com/






追申です。。。
筆者お薦めの寄り道

風情豊かな飛騨高山の市内も立ち寄りたいところだが、奥飛騨も魅力的なところは多い。その中でも筆者お薦めを少しご案内しましょう。……1泊では足りないかもしれませんね。


その 1 私的にはぜったい外せません・・・“ガッタンゴー”

なんだこれ、愉しすぎる!!!
世の中に、バイク以外でこれほど愉しい乗り物があるなんて想像すらできなかった。信じられん、あやうく気絶するところだった。
飛騨市神岡町にある旧神岡鉄道の旧奥飛騨温泉口駅。旧と記しているのは、運行しているのではなく、廃線となってしまったから。
確かに列車は走っていないが、代わりに走る乗り物がある。それが“レールマウンテンバイク・ガッタンゴー”。旧奥飛騨温泉口駅から旧神岡鉱山前駅までの2.9キロを電動チャリで往復する夢の乗り物である。
いわゆるドカヘルといった借用ヘルメットを皆さんかぶっているが我らは自前、そして今にも降り出しそうな雲行きだが高性能レインスーツも自前、バイク乗りは有利なり。
※槍見舘から28キロ、バイクで40分程度の距離に「まちなかコース」出発駅あり。





 さてこの乗り物は……面白い!面白すぎる! 鉄製の車輪が「ガッタン、ガッタン」とレールのジョイント音を響かせる。頑張って漕ぐ必要などない。景色を見ながらまったりと走っていたい。しかしトンネルを二つ越えて、なんだかあっと言う間に折り返し駅に着いてしまう。
帰りはやや登り坂で、カミさんの足の負担を考えて私がフルパワー、と言いたいが、電動アシストなので楽チン。往復5.8キロがこんなにも短く感じるなんて。途中、気を失いそうになるほど癒やされてしまった。

※上記の筆者たちが楽しんだのは“まちなかコース”(そうは見えないが街に近い)。そして“渓谷コース”もあるが、「クマがコース上に出没した場合は、その日のその時間以降の便がすべて中止」とサイトに書かれているので、クマ嫌いの方は“まちなかコース”がお薦め。いずれも要予約。
ガッタンゴーHPへ >> https://rail-mtb.com/



その 2 昼飯なら・・・“うな亭” この価格でウナギ!

ガッタンゴーで運動したあと、平湯温泉街(槍見舘から10分程度)で飯屋を探す。すると匂ってきたのはウナギ蒲焼。「そうだな、贅沢だけど体力使ったのでウナギだな」 ……と思ったが、それほど贅沢な値段ではない。
うな丼は1,100~2,750円の4段階あり。下記写真はたぶん?上丼2,200円也(2014年の取材時は2,000円なので1割しか値上げされてない)。なお、注文後にさばいてから焼くので多少時間は掛かるが、食べて驚いた。奥飛騨の冷水で引き締めたウナギは東京よりだいぶ安く、しかも旨い!


満足・・・
うな亭:岐阜県高山市奥飛騨温泉郷一重ヶ根723  TEL:0578-89-2359 不定休



その 1 源泉かけ流し温泉付きリーズナブル素泊まり・・・“民宿 ほらぐち”

この素泊まり宿は、槍見舘からバイクで10分程度の平湯温泉街にある “民宿ほらぐち”。2014年の取材時、槍見舘に連泊したかったのだが満室で仕方なく前泊、となった。しか~し、「仕方なく」なんてたいへん失礼な話で、良いだここは。
小さいながらも清潔でキレイな部屋、そして風呂は源泉掛け流しの温泉ですぞ。これで税込3,300円ですぞ(2014年の取材時は税込3,000円)。近くの居酒屋でビールとメシ、いや上記“うな亭”でうな丼とビールを足しても合計6,000円でおつりがきそうだ。(どちらも宿から250mくらい)

奥飛騨は魅力ある立ち寄り場所が多いので、2泊するなら、ここで1泊もいかがでしょうか。

岐阜県高山市奥飛騨温泉郷一重ヶ根208-22  TEL:0578-89-3055

※人気あるので土曜日などは早めの予約が必要。



まだまだ魅力的なところはありますが、もうこのくらいで。。。