文・:三橋弘行 [2008年1月7日 送信]



 単車オヤヂ氏はウェアメーカーではないけれど、ウェアの知識はすこぶる高い。またバイク屋さんでもないけれど、時には私のバイクの厄介な修理をしてしまうほどメカにも強い。どちらの職業でもないが同業者といえる人物である。そんなわけで、呑んでる席での話題は当然バイクとそのウェアの話に集中する。

 お互いにずっと思っていたことがあった。
 “高額なバイクに乗り、キレイなヘルメットを被り、新しいライディングウェアは着ているのに、なんで足もとはショボイのだろうか? バイク乗りはなぜブーツに気を使う人は少ないのだろうか?” と。
 若い頃、先輩方に教えられた。就職試験の面接で「背広はそこそこでいいが、靴には気を使え!足もと見られるからなっ!」 そのとおりにしたら受かった。なにもかも靴が良ければ受かるということではないにしろ、ギリギリだったら、足もとがしっかりした若者を試験官はきっと選ぶだろう。

 いい酔い加減になった時、単車オヤヂがボソッと語りかけた。
 「現状のペアスロープのブーツは優秀だね。ほら、呑み屋にだって履いていける」 そう言って足を上げて見せたのは、弊社“グフ 7”。(それは歩きやすいけどツーリング主体ブーツである)
 そしてなお、「だけどね、ウェアのほうはずいぶんレベルの高いもの作ってるんだからさあ、それに合わせたちがうジャンルのカッコいいブーツ、作ってみてよっ」
 そうは思う。が、しかし、ウェアやバッグ類は弊社工房でなんとかなっても、ブーツは作れない。絵を描くだけで、専門の工場にお願いするしかない。しかも今やレベルの高いブーツを作れる工場は、日本に数少ないのである。
 単車オヤジが私の足もとを指差して言う。
 「それっ、そのメーカーに作ってもらったら、最高のブーツが作れるんじゃないかなっ!」
自称“単車オヤヂ”・・・バイク関連だけでなく、なぜか広い範囲で豊富な知識を持っている謎めいた人物である。



氏とは酒を呑んで遊んでいるだけではない。時にはサーキット勝負も。いい歳をしているが、なかなかあなどれない走りである。結果はもちろん・・・。



 履いていた靴は“リーガル”だった。高校時代から、かれこれ30年以上、我が家の靴箱に欠かしたことのない、愛着あるブランドである。

 確かに素晴らしい靴作りをしているメーカーではあるが、ハイ、そうしましょう、とはとても言えない。“リーガル”を作っているそのメーカーとペアスロープでは、いろんな意味で会社が違いすぎ、依頼してみようか、などとまったく思えない。「そりゃあ、いいもんできるでしょうねえ・・・」と、芋焼酎のロックをグビッと呑んでその話は終わり。
 酒の席での夢物語であったが、しかしその話はその晩で終わらなかったのである。



 2006年11月末、そろそろ来春製品の企画でもしようと仕事をしていると、単車オヤヂ氏から電話が掛かる。あの晩から数日後のことである。

 「例の件、先方さんと連絡をとったから、会って話をしてみましょう! 来週どうかな?」

 “例の件”とは「そのメーカーに作ってもらったら最高のブーツが・・・」。“先方さん”とは、あの晩に私が履いていた靴“リーガル”を作っている“ リーガル コーポレーション”であった。
 「まあ、雑談ということで・・・」
 とは言われても、なんということだろう。あのオヤヂ、いや失礼、氏はけっこう酔っ払っていたにもかかわらず、本気で思っていたようだ。(私は聞き流していた) そして先方さんと氏の会社とはまったく取引関係がないにもかかわらず、なぜそんな大胆なことができるのだろうか。恐ろしく顔が広い、やはり謎の“単車オヤヂ”なのである。
 そして翌週、銀座でお会いすることに。。。
氏は銀座が遊びのテリトリーである。「あの路地曲がるとナニがある」ってやたら詳しい。と言うのも、自宅は歩いて行ける距離だから。たまには筆者もお付き合いさせていただくが、毎度帰りは午前様。嗚呼・・・



 銀座に“REGAL TOKYO”というリーガルの旗艦的なショップがある。ひとランク上といったリーガルシューズなどが綺麗に並んでおり、またここではワンオフの靴も作られている。銀座に工房とは恐れ入ることだ。
 2006年12月5日の晩、そのショップに入る。ここが雑談待ち合わせ場所である。(まだ打ち合わせではない)
 ショップ支配人に案内され、2階のゲストルームに。そこには背広をビシッとキメたリーガルコーポレーション本社の事業開発部次長、その企画担当、営業本部課長、そして単車オヤヂ氏、私はジーンズ姿だ。雑談にしては大げさなメンツで、いやぁ〜、先方さんと面識のある単車オヤヂ氏がいなかったら、ど〜しようって感じである。

 さて、そこで何の会話をしたのか話そう。・・・と言いたいところだが、残念ながら思い出せない。昨日の晩飯のおかずすら忘れる私が(呑んでるからか)、1年以上前の会話まで覚えているわけがないのである。
 まっ、雑談はほどほどに、単車オヤヂ氏が先頭で夜の銀座を皆さんと午前様まで飲み歩いていたことは覚えている。
 なお、ひとりだけ無情にも一滴の酒を交わすことなく帰ってしまったのが企画担当、その名は“花田”氏。幸か不幸かこのストーリーの重要人物になろうとは、その晩の氏には思いも寄らぬことであったろう。


 なんだか酒から始まって酒で終わった冗談っぽい初回の話であったが、少々呑んでいようが頭の中の構想は大真面目である。
 さて第2話からは、いよいよ憧れの靴作りが始まる。とともに、企画担当、花田氏との格闘の日々も。


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