文・:三橋弘行 [2008年2月8日 送信]



 さて、待ちに待った試作第1号、多少遅れたはしたものの2007年2月頭の某日、出来上がったとリーガルCo.から連絡があった。 そしてその翌日、担当の花田氏と営業F氏、そして彼らの上司である営業課長N氏を引き連れ、それを持って弊社に来店。
 その第1号は、ヒモのタイプであるR-02を先行試作とした。 弊社の場合ほとんどの試作品は店舗2階の工房で作るので途中工程を見るが、今回はいきなり試作完成品なのである。なんだかワクワクする気持ちを抑え、平常心を装って彼らの前に座る。見たい!、早く見たい!
 ・・・だがしかし、課長N氏は手さげ袋からなかなか取り出そうとしない。そして、、、
 「いやあ、これは足を入れる単なる見本みたいなもんでしてね、、、イラストから忠実に作った試作品というわけではなくてえ、、、」 と言いながらまだ出そうとしない。まあ、もったいぶってないでどうぞっと手招きをすると、「デキはよろしくないですがねぇ」と、やっと手さげ袋から箱を取り出す。そしてまた「ちょっとデキがねえ、、、」 と言いながらやっと箱のフタを開ける。

なんだこれはぁ〜!!!


 課長の言葉は、謙遜とばかり思っていた。ちょっとデキがぁ? チョットどころじゃあないっ! 試作といえども頭の中に描いていたものは、精巧な紳士靴を作るリーガルCo.の可憐なブーツ。買ったばかりの新車を転かしたような、衝撃的な出来事である。

左上が衝撃的な第一試作品。あまりにも・・・なので写真はこのくらいでご勘弁を。なお当初はウイングチップ(つま先の山のカタチのデザイン)を考えたが、チェンジに不都合と分かり変更。


 なるほどぉ、なるほど花田さん! どぉ〜りで課長を連れて来たわけだぁ。神妙な顔つきで会話などなく、いつものような冷酷な、かつ冷静なるドでかい態度もまるでなし。今まで思っていた氏のイメージ“職人気質”はこの場で消えうせようとしていた。そしてなお、第一試作は見た目だけでなく、足入れ感覚もダメ。木型(靴型:立体の形を決める、靴にはもっとも重要な型)から根本的に考え直すことに。
 しかしここで湯気を上げるわけにはゆかない。二輪業界では“ホトケのミツハシ”と呼ばれている私である(勝手にそう思っているだけだが)、すぐに頭を冷やして次の策を考える。もうその場で第二試作を打ち合わせる。このぶんだと第三試作までゆかないと、ある程度納得のゆくブーツにならないのかと不安もよぎる。
 でもねえ、“ホトケの顔も三度まで”って言葉もあるのだよ、花田さんっ!
紙の靴?はR-01ファスナータイプのデザインサンプル。右は“リーガル”ブランドの市販品。第二試作に向けて思案中。

10ヶ月のちの2007年秋R-01/R-02生産開始前、の、これまた事業開発部の皆さんと呑んだ席で
「あのデキの悪い初回試作品、よくもまあ平然と夫婦坂に持ってったもんだよなあ、ヤバかったよ、ほんとに」
と笑い話になっている。でももし私が“ホトケの・・・”ではなかったら、いったいどうなっていただろうか、、、?

 そしてひと月、ふた月と沈黙の月日が流れた。いったいどうなってるのだろうか。あれこれ言い過ぎたので、先方さん、もうやってられないってあきらめてしまったのだろうか。私とて、正直ダメかなあと、半分はあきらめていた。
 なんの連絡もなく、こちらも催促せずにいたゴールデンウイーク後のある日、突然電話があり、第二試作を送ると言う。また何言われるか分からないので、持参することは避けたのだろう。
 箱を開けてみると、R-01ファスナータイプとR-02ヒモのタイプが。「おっ、なかなかカタチになってきたじゃないか!」 といった感じだ。こんどのは履いてみようか、と思うブーツで、初めて試し履きをする。(第1試作はそんな気もおこらないので店の者が試し履き)
 しかし、第2試作と言えど、その前がナンだったから初回サンプルみたいなものである。半月ほど履いただけで欠点が確認でき、花田氏が来社して打ち合わせ、第3試作へと移行する。・・・それにしても、2006年12月に初めて会ったあの日から半年が過ぎようとしているのに、もう10回近く会っているのに、氏の笑った顔は見ていない。目ん玉を見開いて、毅然とした態度は相変わらずである。
R-02第二試作品(中央)。シフトチェンジするつま先部分は二枚革で、それがまたヤッカイなことで、歩行時の履き心地を妨げる。第三試作品では、そのカタチや中に入るシンも変更を余儀なくされる。


 7月上旬、第3試作が出来上がる。それはもう、急激に完成度が高まったシロモノだ。
 2ヶ月近く履いた第2試作から、第3試作に履き替える。・・・これはいい。靴は新品時で良し悪しが分かりにくいアイテムだが、直感!というのだろうか、足を入れて数歩あるいただけで、顔がゆるむほどデキがイイ。

 「花田さん! いいよこれ、最高だよこれ!」

 この時、この直後に初めて花田氏の笑顔を見た。あんなに頑固一徹、笑うことを拒んでいた氏が、やはり職人気質なのだろうか、いいもの作りができた時にはほっとするものである。
 「お祝いだぁ、一杯行こう!」にも、初めて酒を酌み交わすことになる。
半年以上の間、見せたことのない花田氏の笑顔である。


R-01ファスナータイプの第三試作。ど〜です。これぞグッドイヤーウエルト式! 素晴らしい仕上がりでしょう。そりゃあそうです、革は贅沢にも“キップ牛”を使ってますからねえ。(販売品も同仕様)


 最終の試作品に限りなく近いブーツが出来上がった。第3サンプルは複数作っており、弊社スタッフだけでなく、足のカタチが異なる外部の人にも念には念を入れてモニターをお願いしている。
 これで良しっ、いける! と思ったのは一瞬だけ。それらを販売に持ってゆくには数々の問題が残っていた。

◆第一に、試作品での一品作りは素晴らしいが、販売用として生産することが可能なのだろうか?

◆第二に、コストを考えずに試作を進行している。通常は商品を企画する上で、まずコストと販売価格を考えるもの。良いものはできるだろうが、さて、いかがなものか?

◆第三に、試作品を作った新潟の工場。そこは“リーガル”や“ジョンストン & マーフィー”(リンカーンから始まったアメリカ合衆国の歴代大統領御用達ブランド)といったリーガルCo.のカンバンブランドばかりを生産している工場。そんな中に割って入れるのだろうか?

◆そして最後に・・・・・・もっと根本的なデッカイ問題が。
弊社ペアスロープは、リーガルCo.と、いまだ取引き関係でもないし、それを許可されているわけでもない! 契約を交わなければブーツは作れない!!! ・・・そんな大事なことをすっかり忘れていたのである。サイテーっすね。

 2006年12月のあの晩の雑談を思い出した。「モノになるかならないか、とりあえずやりましょうか」
 そう、「とりあえず」進めたことなのである。せっかくモノになる直前だというのに、なんとまあ、あさはかな。。。

それぞれ履き込んだ第一と第二。そして第二の欠点を解消した第三は、より可憐に、限りなく販売品に近いデキ。試作開始から8ヶ月目の2007年7月、やっとここまでたどり着いたのである。


 さて、R−01、R-02ともに第二試作はバイクに乗り、そして歩いたが、第三試作はもっと酷使させてみることに。

 次は、走って、歩いて、また走る。
      ・・・ソールのパターンが消えかかるまで、、、。


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