2011年3月11日 担当 尾原

四国の工房で作られるグローブは、素材、デザイン、長さやベルトの形状など、用途・好みに応じて様々な種類があります。でもそんな中、物づくりの上で絶対に外せない「基本」があるのも事実。それら基本の意味をひとつずつひもといていきます。


1.革であること

 グローブをただ「快適に乗車するための道具」と考えるなら、革である必要はありません。合成皮革や生地を使った方が、柔らかくて快適。色落ちなんて不安も無いでしょう。
 でも、万が一の時に手を守ってくれる「防具」として考えるのなら、それでは不十分。数ある素材の中で今でもベストな選択は、天然皮革であることは言うまでもないでしょう。



 
2.革の素材と厚み

 グローブを店頭で選ばれているお客様を見ていると、ほとんどの人が手を曲げたり伸ばしたりして、自分の手に合うかどうか確かめています。この時、グローブは柔らかいほど好まれます。柔らかさは、素材の厚みに比例します。
 他社で用いられるライディンググローブの革がおおよそ1mm厚以内なのに対し、ウチの牛革が1.2mm厚、鹿革は1.4mm厚。結構厚手の革を用います。それは全て、安全性と耐久性のため。最初から柔らかい方が、よく売れる事は解っているのですが、強度を犠牲にする・・・なんてことはありません。(転倒して手が守れないグローブでは意味が無いのです)。

左はオイルド牛革の1.2mm厚。右は平側に1.4mm厚の鹿革、甲にフィンランドエルクを用いたグローブ。エルクは平均でも3.5mm厚。これほどの厚みでもグローブになるのは、素材がそもそもとても柔らかいから。
左がゲージ(外縫い)縫い。右が一般的な内縫い。内縫いは、厚みのある革を用いると縫い代部分が手に当たり、違和感の原因にもなります。

 ゲージ縫いは、ステッチが見える縫い方です。縫製職人の熟練度合いによって、そのステッチの美しさは大きく異なってきます。糸は摩耗に強いボンド糸を使っています。


3.工房オリジナルのパターン

 基本的にライディンググローブは、ガンカット(弊社ではこのように言う)を採用しています。ガンカットは、手の平側に縫製部分が少なく、操作が複雑なライディンググローブに適していると考えています。
 このパターン、各社が用いていますが、ウチは独自の改良を加えています。例えば、指が軽く曲がっていたり、指またにフィットしやすかったり。よりバイクに使いやすいよう改良を重ねています。


初期段階のグローブは軽く指を曲げた形に作っています。指をまっすぐ作るとグリップを握るときに、曲げて作りすぎると、手を開くときにストレスがあり、バイク用としては向いていません。
グリップの握り方、ブレーキレバーのつかみ方は、人によって大きく異なります。例えばブレーキレバーを二本指でもわしづかみでも、つかみやすいように作っています。
親指は、他の4指より大きく作っています。人によって親指のポジションが微妙に異なるため、細く作ると絶えず力が必要になり、手の疲れの原因になります。大きく作ることで親指の可動範囲も大きくなっています。


4.大きな一枚革

 革は伸縮のある素材です。手を入れ中から圧力を掛け続ける部分は伸び傾向に、それ以外の余っている部分は縮む傾向にあります。ただし初期段階で若干の縮みがありますので、指先につまめる程度の余りのあるグローブを選ぶことが肝心です。
 人の手のサイズというのは、指の長さ・平の大きさ・拳回りの太さなどを計測してみると、各々まったく異なるものです。その全くサイズの異なる手を、おおまかにS・M・L・LLといったサイズにおさめていくのですから、人によってしっくり来ない所があるのも当然です。
 革素材の良い所は、前述の伸縮によって微妙なサイズのバランスの違いを補ってくれるメリットがあることなのです。(2サイズ分以上異なると、革の伸縮だけでは補えません。その場合サイズオーダーをご利用下さい。)


革の伸縮は、大きな一枚革を用いることでもたらされます。縫製等のつなぎがあると、伸縮率が異なり、サイズ感の不足を補えない場合があります。
手の拳部分は、開いた時と握った時の周囲の長さが異なります(手の平の筋肉が寄ってくるため)。革に十分な伸びがあると、写真のように握ったときに拳に沿ってフィットするグローブになります。

 どちらかというと最近は、革を使っているとクラシックなイメージをもたれやすいのかもしれませんが、上記のような「基本に忠実」な物づくりをしていると、革以外の選択は考えられないのです。
 この4つの項目、これまで「工房からの手紙」で度々触れてきた項目ばかり。でも未だ、「知らない・・・」ていうお客様が大多数なのかもしれませんね。今後とも、これら基本は変えることが無いでしょう。


これら「基本」は製品テストによってもたらされたものばかり。
決してツーリングと称して、遊んでいるばかりではないんですよ(笑)。

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