48番 西林寺山門

第七回 菩提の道場編 その二

二輪で遍路旅は、愛媛県の南西部を終え、松山市内へ入ろうとしています。梅雨明けすぐの七月末日、待望の夏空に浮かれて巡礼に出かけた僕は、ちょっと無謀な「修業」に挑んだのでした。


 今から思い起こせば、巡礼の日の朝、ちょっと微熱があったのかもしれません。ただ、あまりの暑さのせいか、気が付かなかったのかも。
 そう・・・実は、その前の週に、息子が「りんご病」(小さい子どもに流行る病気、頬や手足に発疹が出来る)と診断され、僕も息子と同じく風邪のような症状で、いまいち調子が悪かったのですが、待ちに待った「梅雨明け」が四国地方にも発表され、夏がやってきた嬉しさのあまり、遍路旅に出かけることにしてしまったのでした。

 今回から、旅の針路は西へ。高松から高速を200kmほど走った松山の近くから始まります。目的地は巡礼の旅折り返しの44番大宝寺から。この日ものんびりしたスケジュールで、朝遅く出発。そして「何番まで行く」というノルマも設定しなかったのでした(時間にあせるばっかりで、面白くないですよ)

久万高原の山中に、ひっそりと佇む大宝寺。樹齢800年前後と言われる、杉や檜の巨木が寺の回りを包んでいます。荘厳な感じです。
 
 当日の天気は晴れ、といっても雲の多い天気で、どちらかというと蒸し暑く感じられます。気温は体感的には確実に30℃を越えていて、バイクが止まれば汗が噴き出す感じ。股下には、油冷エンジンの熱風が直接当たり、膝や太股は、「熱い」どころか「痛い」に。
 たまらず、長袖のジャケットを脱ぎ捨てて、Tシャツに白衣でバイクに乗ると、直射日光の当たる腕がヒリヒリと。おまけに暑さで、頭がぼんやりとしてくるという具合。走っていても、体調は最悪なのでした。でも「暑さのせいだろう」と気にもせず、次の札所岩屋寺へ。

山門から本堂まで220段余りの石段と坂道。本堂にたどり着くまで、結構「きつい」思いをするのは、この巡礼の旅で初めてかも。

 岩屋寺山門下でバイクを置き、坂を登り始めると、何故か息切れして、体は重い。汗は噴き出してくるし。何かが変。

本堂は、大きな岩場の中腹の窪みにあります。いかにも深山幽谷の山寺という感じ。

 ところで岩屋寺には、この岩山を使った行場(修業の地)があり、弘法大師が修業した場所との事。「逼割禅定(せりわりぜんじょう)」と呼ばれ、どうやら行くのは大変らしい・・・とガイドブックには説明が。

 でも、せっかくここまで来たのだからと、体調不良にむち打って、行場に挑戦することにしました。

寺務所で、行場へ行きたい旨を伝えると、鍵と40枚ぐらいのお札が渡されます(¥200)。鍵がかかっているなんて、何か謎めいた雰囲気が漂うのです。
この朽ちた山門が逼割禅定と三十六童子行場の入り口となります。もちろん同じ方向に行こうとする方は、皆無なのです。
三十六童子行場とは、鍵と一緒にもらったお札を、山中に点在する「おじぞうさん」近くのカゴ(写真左上)に納めていく修業の場。暑さと山道のキツさで体はボロボロに。
童子行場の先には、岩場があって、岩の裂け目に木戸があり、ここが逼割禅定の入り口となります。この先鎖場となっていて、岩を登っていきます(ほとんど垂直です)。
最後の大きな岩には梯子がかけられていて、岩の頂上にたどりつきますが、岩の回りも断崖で、鎖が回りに垂れています。目も眩むというものです。

 さすがに鎖場は大変な所で、一つ間違えれば怪我でもしかねないです。でも、鎖にぶら下がりながら、少しずつ登り、頂上に着くと、何とも言い難い達成感があるものですね。
 鎖場は、体力に自信のある方なら行って大丈夫でしょうが、雨などで足下の悪い時や、高所恐怖症の方は止めておいた方が良いかもしれません(だから鍵がかかっているんですね)
 あまりにも体調が悪かったので、本当に「大変な修業をした」という気分になったのでした。

山門下で売っている山水で冷やされた瓶入りラムネは、格別に美味しいのです。山中で頭がガンガンしていたのは、軽い脱水症状を起こしていたからかもしれません。

久万の道沿いで売っていた「朝取りとうきび」をほおばりました。ただ焼くだけで、醤油も何もかけていないのに、甘くておいしかったのでした。

 山を降りてきて、しばらく木陰で休憩したのですが、相変わらず体調は悪いまま。いつまでもここにいられないので、意を決して、次の札所へ行くことにしました。

上から46番浄瑠璃寺。47番八坂寺。48番西林寺。立て続けに三つ寺をお参りした所で、午後5時の時間切れに。

46番浄瑠璃寺には、仏様の足跡を刻んだとされる仏足石があります。裸足で踏むと交通安全が祈願できるとか・・・。

 その日は、夕方近くになっても涼しくならず、逆に松山市内の車が多い時間帯にさしかかったため、エンジンはさらに熱を持ち、暑さゆえ意識はさらにもうろうとし始めていました。
 「こりゃ涼しくなってから走り出そう・・・」と考え、かの有名な道後温泉で一服することに。

道後温泉は霊の湯二階席(どちらかというと特別席)に。浴衣やタオルにお茶とお菓子が付いて、風情ある建物の中でゆっくりと、くつろぐことができます。時間があるのなら、階下の一般浴場よりこっちがおすすめです。

 道後温泉につかり、座敷にて一服していると、赤い発疹が体中に出来ていることに気付いたのでした。明らかに日焼けとは違い、「こりゃ先週見た、息子と同じリンゴ病だわ・・・」と。
 まだ病中にもかかわらず、炎天下ツーリングに出かけて、行場にも登ったのだから、無理のしすぎで、体も悲鳴をあげていたということです。(筆者注:リンゴ病は発疹が出る頃には、他人にうつす可能性はないそうです。)
 でも、体調不良の原因が解ったような気がして、逆に「ホッ」としたのも確かなのでした。

 その日は、十分に休息して、太陽が沈んでから、高松まで移動することにしました。

 何だか、子どもに流行る病気がかかるなんて、格好悪いものです。(とにかく大事には至らずよかったけど)






おまけ・・・
愛媛では、鯛めしが2種類あって、東予では釜で鯛を丸ごと煮込むのですが、南予では、切り身をご飯の上に乗せてタレをかけて食べるのだそうだ。個人的には南予風が好みで、おいしく頂きました。





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