最終頁 2007年4月12日

 昨日は想定外の展開だった。本来、カミさんと同行なら、今日は春日大社、法隆寺、郡山城跡などをぶらつく予定だったが、野郎二人ではキモイ。さりとてここ、奈良のビジネスホテルで解散というのも味気ない。今日、東京に帰ることは、すでに昨日決めていたが、せめて最後にきれいな五重塔でも見て帰ろうと考え、長谷寺に向かう。

荷物満載のレトロなW650。長谷寺にて


 奈良市を南下し、40分ほどで長谷寺に着く。その前でWの写真を撮っていると、散歩中の地元のジイさまに話しかけられる。
「へぇ〜、品川から来たんかい。あっちのニイさんは高松? なんや反対方向やなあ。」 旅先でご老人に話しかけられる時は、たいがいナンバーの「品川」で始まる。
「お寺さんに登るんかい? そなら、あそこの路地を通れば、拝観料はいらんよ、ほらあの道」
 ご親切はたいへんありがたいが、ほかのことはインチキしても、拝観料を払わず見学するってのは気分がよろしくないので、
「いやぁ、そこの高松のボンボンはおカネいっぱい持ってるんで、いつもより多めに払っときますぅ」。

 拝観料を普通に払って門をくぐると、そこには長〜い屋根付の階段(登廊)。これは絵になる、革ジャンを着た女が、一歩づつ石段を登る、、、と空想するも、見上げれば讃岐のオヤヂがポツリン。



 山の中腹にあるおよそ1300年の歴史を持つ長谷寺。緑豊かな森のすき間に薄桃色の桜が鮮やかだ。きっと秋の紅葉時も、それはそれは趣きがあるだろう。平地にある東大寺が“豪快”なら、長谷寺は“可憐”と表現しよう。



 長谷寺の五重塔が美しいのは、バックの森の深い緑に、塔の朱色が鮮やかに映えるから。そしてこの季節、桜の花がしっかりと脇を固める。
 昨日までは、ゼファーのスタイリングが美しい、Wはエンジンが美しい、な〜んて言ってたが、この古き良きニッポンの美しさは、比較できようもない、次元のちがうもの。もっとでっかい、歴史観と天然の“美”なのである。

 無心で写真を撮っていると数人のお坊さんとすれちがう。そのたびにお坊さんは手を合わせ、
「おはようございます。」 と、しっかりとした声で俺ごときに挨拶していただける。
 可憐な長谷寺の風情に加え、お坊さんたちの手を合わせたこのご挨拶に感無量。ふり返って見たお坊さんのうしろ姿と、その横に建つ五重塔と桜のスリーショット・・・なんと美しかったことか。(広角レンズ不備でそのシーンを撮れなかったのがまことに残念)




 すがすがしい気分で長谷寺をあとにする。尾原とはこの先、往きに下りた名阪国道 針インターチェンジ 道の駅で分かれるとしよう。
 長谷寺の駐車場を出て、県道38号を北に走ること数分後、突然“この先 二輪通行禁止”の標識。
「なんだこりゃあ! こんな山の中の広い緩やかな県道が、なんでバイクだけ通れないんだ、尾原君! こんなの無視しようじゃないの!」
 と、県道数百メートル先の丘の上に目を凝らせば、なにやら上下青い服を着た者がかすかに動く。ほんとキッタネェーことしやがる奈良県警!
 尾原が30m手前にあるカンバンを発見。その右に狭〜い路地があり、バイクはそこを通れ、とのこと。青い服着たヤローにひとこと言いたかったが、小心者尾原の言うことを聞き、迂回路を進む。そこはガードレールもろくになく、クルマ1台分の狭く暗く曲がりくねった道。1Kmほどで、広く緩やかな県道に合流。迂回路のほうが危険じゃねえか。
 いったいなんだったんだ、これわぁ! 迂回させる正当な理由も書いてないのだから、県外のバイク乗りから反則金を取るためだけのワナにしか思えん。お賽銭だって拝観料だって十分出した。なのになぜそれほどバイクをイジメなさる・・・恐るべし奈良県、奈良県警 !

 針インターの道の駅に着く。尾原がリアバックから二つの箱を取り出し、ニコニコと向かってくる。
「指示されたとおり、奥さんの馬グローブと三橋さんの鹿グローブ、作ってきましたぁ〜」
 いまさら遅〜〜〜い、尾原! 昨日はカメラマンがいたじゃないか。馬ジャンも鹿ジャンもあって、なんとかいっしょに撮れたじゃないか。

針インターの道の駅で得意そうに持ってくる尾原ではあるが。 馬屋島ショート(左)と、あの藤岡勇吉本店の革で作った鹿屋島ショート。[男奈良送信を記念して?5月3日より臨時限定販売(製品裏情報サイトにて)]

 カッコいい革ジャンには、最高品質のグローブがふさわしいと、あらかじめ尾原に特注品を作って持ってくるよう指示していたのである。しかし、男二人そろって、この解散10分前まで忘れていた。まったくマヌケな話だ。

 さて、いよいよ奈良ともお別れだ。この針インターで尾原は四国へと西に、俺は東京に向かって東へと走る。せっかくだからと、尾原が作ってきた“鹿屋島ショート”グローブを使ってみよう。
 嬉しくなるような素晴らしい装着感と同時に、奈良公園の鹿、藤岡勇吉本店の鹿の革、おっ、あの居酒屋の鹿刺しまで頭の中をよぎる。・・・又兵衛の夜桜、吉野の桜、室生寺、東大寺、薬師寺、長谷寺等々、みんな良かったなあ。計画どおりに「おんな奈良」の後編にならなかっただけが心残りではあるが、また行けばいいか。

 奈良の針インターからおよそ460km、男なら給油休憩2回で東京の自宅まで4時間50分。平均速度94km/hだから制限速度セーフ!、、、?
 レトロな顔してなかなかやるな、W650も。。。



[前編]
文:石野哲也
写真:坂上修造
ウェブデザイン:三橋

[後編]
文・写真・ウェブデザイン:三橋



[あとがき] みなさん楽しんでもらえたでしょうか。本来の計画とはちがってしまったけれど、弊社のカタログや製品作りがこうやって進んでゆくのがお分かり頂けたかと思います。遊んでいるようにしか思われないでしょうが、しっかりと仕事してるのです。
なお今回取り上げた馬革や鹿革のことは、石野てつやのニューページ “こだわりません 勝つまでは!”で、いずれとことん詳しく発信するので興味のある方はどうぞ。
・・・今年はまだこんな旅の仕事を何度かしなくてはならない。ツライなあ、ほんとにツライ、嗚呼ツライ、、、。
2007年5月6日 三橋

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