2024年3月30日 送信

 戦国時代の鎧現在のモーターサイクル用プロテクション「身を護る道具」という意味では同じであろう。異なるのは前者の乗り物が馬ということ。そしてそのスピードも。
 2024年1月のとある日のこと、ヒョウドウさんから鎧が、いやちがう、エアバッグベストが弊社に届いた。初めて目にするプロテクションで、弊社ペアスロープでは想像もつかない代物だ。
 ヒョウドウさんの本社は浜松である。浜松と言えば徳川家康ゆかりの地。かつて家康は今川勢、武田勢、織田勢、そして豊臣勢と戦い、自らも鎧を身に着けて苦戦しながらもやがて天下人となった。……そうなのかぁ、家康を見習って機能的な鎧、いやプロテクションを作っているのか。ならばきっとバイクウェア業界の天下人になるに違いなかろう。と、少しはヨイショもしてみる。


エアバッグベストの背の部分。
この近未来的なハイテクデザインは、私のような昭和人間には理解不能。
なお、2024年3月時点では、このエアバッグベストの正式名称は、、、

HYOD AIR-BOOST FORCE 01
ヒョウドウ エアブースト フォース 01

しかし、しばらくコラム内ではエアバッグベストと表示。


 ところで私、バイクにはかれこれ50年で50万キロ以上乗っているのだが、頑強なプロテクションには頼ることなく、「転けなければいいじゃん!」 といったきわめてアナログ的な昭和の男である。確かに大ケガするほどの転倒はしたことがない。
 昭和時代のプロテクションウェアは革ジャンが最強だった。繊維製品と比べてはるかに丈夫で、転けても痛くない(そんなことはございません)。しかし平成、令和と時が進み、安全性の意識が高まると同時に効果的なプロテクションも進化してきた。弊社としても「転けなければいい」な〜んてのんきなことは言ってられず、ライディングウェアには(ほどほどな)プロテクションパッドを装備。そして近年はヒョウドウさん協力により胸部パッドもオプション装着可能とした。
「ペアスロープのプロテクションは、まあこのくらいでいいかな、ほどほどってのがいい」、と思っていたところで、ヒョウドウさんから斬新なエアバッグベストが届いたのである。


ペアスロープのウェアはヒョウドウさんの超衝撃吸収材、
「D3O エアチェスト胸部プロテクター」
がオプション装着可能。
革ジャンは要加工、繊維ウェアは装着可能なマジックテープが加工済みのアイテムあり。


 エアバッグベストを持つと重さを感じた。ならばと、当カタログ撮影のモデルさんも着用。「どうかな、重いかな?」に対して「カッコいいですねえ、、、」、「じゃなくてだなあ、重さだよっ」、「あっ、そうでもないですよぉ」の返事。従来のプロテクションベストに慣れている若者(といっても30歳)には違和感が薄いようだ。でもこのエアバッグベスト、実際にはどんな状況でエアが瞬時に出るのだろうか……。
 私のようなアナログ思考回路では、バイクとエアバッグベストがロープでつながり、転倒や衝突時にロープが外れてバシュッとエア放出と考える。でもまてよ、、、それではロープがついてるのを忘れて、あわててバイクを降りたらバシュッ! っとなるじゃないか。ダメだ、それ。
 ……しかしその機能はアナログ人間の私の想像とは大きく違っていた。
 なお、すでにお分かりの皆様も多いが、弊社ペアスロープとヒョウドウプロダクツさんは同業社だ。とはいえ会社の大きさが違い過ぎてライバルというわけではない(もちろん弊社が小さい)。でもなぜ最新鋭の発売前の製品を弊社に送ったのであろうか。しかも本家本元のヒョウドウさんのカタログより先に、ペアスロープカタログにプロトタイプを掲載してしまう。なんだこれは、完全に順序が逆ではないか。う〜ん、何か魂胆があるな、家康!


すでにプロテクションベストを着用しているライダーならば、違和感は少ないでしょう。アクシデント時には肩を含めた胸部と背後にエアバッグが膨らむそうである。なお、背後の尾骨部はレーシングスーツ用オプションのソフトなD3O着脱式プロテクション。 [2024年1月26日、ペアスロープ本店上階にて撮影]


涼しい顔してペアスロープのMA-1LJ革ジャンを着ているモデルさん。
前も後ろもシルエットにほとんど変化なし。他人には気づかれないでしょう、エアバッグベストを着用しているとは。


 2024年2月、エアバッグベストが増々気になってきた私はヒョウドウさん本社に電話。まずは社長にご挨拶して担当さんを紹介していただく……はずが、「でぇ〜〜〜まだ責任者が決まってないですとぉ!」。とはいえ今のところ社長がいちばん詳しいのでエアバッグベストの構造を尋ねてみることに。
 さてどうやってエア放出するのかは、やはりロープではない。コントロールユニットがベストに内蔵。センサーがありストリート用、アドベンチャー用、サーキット用とそれぞれカウンターアプリで設定し、その環境でのアクシデントで、インフレーターという小さなボンベみたいなものが瞬時にガス放出……ということだがカタカナ多いぜぇ。いまだにキャブレターバイク(これもカタカナだけど)に乗ってる私には理解できない。なので「電話じゃあ分からないから近々そちらに伺って、もう少し優しく教えてくださいな」ということに。まだエアバッグベストのカタログすらできてないのだから、訪問してエア放出実演を体験してみよう。



●株式会社ヒョウドウプロダクツ
モーターサイクル用品の製造販売。まさしく弊社ペアスロープの商売敵である。
初めて浜松のヒョウドウさんを訪ねた時の印象は……「なんとデッカイ店だ!弊社本店の100倍はあるだろうか。でも大きければいいってもんじゃないっ!」 と負け惜しみ一発。まあ、大は小を兼ねると申しますが、、、
レーシングスーツ:世界的に見ても、お世辞抜きで超一流の作り。エアバッグベストを装備できるアイテムもある。 革ジャン:これほんとに商売敵でお世辞は使いません。我がペアスロープ革ジャンに自信あり!(ごめん、ヒョウドウさん)



 さてさて、私を含めてモーターサイクルを楽しんでいる方々は大勢おられる。反面、それを心配する家族や大事な人はさらにおられる。祖父母に両親、奥様、旦那様、息子に娘さん、私のように孫もいれば……
お気づきだろうか、エンジンを掛けて家を出た瞬間から周りに心配を掛けているのだ。

 このエアバッグベストは安価ではないだろう。おそらくは弊社革ジャンの半分くらいにはなるであろう。いやそれ以上か。しかしその金額で安全と安心を買う保険と考えるなら、それほど高額ではなかろう。
 でもなあ、まだまだ半信半疑である。クルマのエアバッグみたいに、アクシデントでほんとに都合よく作動するのかな? それを確認できるまで、やはり私は……「転けなければいいじゃん!」


転けなければいい、筆者近影
三橋 弘行 Mitsuhashi Hiroyuki
かれこれ半世紀に渡るバイク乗り。その経験を基に自社工房による革製品を中心としたウェアやグッズを製作。「日本の職人の技は、まだまだ捨てたもんじゃない!」が心情。
バイク以外にも鉄道、温泉、酒好き。グラフィックデザイン出身の元縫製職人、ペアスロープ代表および京都伏見店の店長兼務。
※写真はペアスロープデザインのHYOD社製レーシングスーツ(製作終了品)。・・・ヒョウドウさんとはたま〜に妙なことをします。



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