ペアスロープのメイン工房

 ペアスロープ店舗上階にあるのが、革ジャン製作主体の“夫婦坂工房”。ではなぜその名称なのかと述べれば、PAIR SLOPE を訳して夫婦坂。しかしそもそも近隣の“夫婦坂”を無理やり欧文にしたのがペアスロープなのだから、元に戻しただけのことである。
 創業当初は1階店内に販売製品とともにミシン1台を置いて営業していたが、後に夫婦坂工房を設置。現在は5名の職人で1日1〜2着の革ジャンを製作。各職人の縫製歴は16〜26年である(2010年現在)。
 しかしなぜ店舗上階に工房を設置したのか。それは創業当初から、革ジャンだけでなくオーダー品のお客様が多く来店され、それには直接、作る職人が対応したほうが良いと判断した為である。今も難解なオーダー品のお客様対応は、職人が行う。ただし、口数が少なく、職人言葉なので、そこのところはご容赦いただきたいのです。
 ちなみに、自社ビルではございません……。






革ジャン作りの流れ

 革ジャンは、ラインナップ既製品で裁断から完成まで約20時間、オーダー品では革部分一人縫いで22時間以上を要す。
 近年では年間の製作着数は減少している。それは時間の掛かるオーダー製品の割合が約半数となった為である。好みに合ったカラーや仕様、サイズオーダー品は、お客様の満足度が高い。サイズが合わない革ジャンを無理に着ることなどお薦めしないので、これからもオーダー品の比率は高くなると考えられる。

 では、革ジャンをどのように作るのか、を短時間でご説明いたしましょう。

パターン:既製品もオーダー品もこの型紙がなければ製作不可能。特にオーダー品は、パターンナーが1着分専用で型紙を製作する。

革剥(す)き:縫製上、革の重なる部分は多い。そのまま縫ってはぶ厚くなるので、革を削る。この革スキ機械を自由に操るにもワザがいる。

マーク:ある革ジャンの肩につく小さなくり抜きマーク。その周りの縫製糸は2周。そしてその針穴は、まったく同じところに縫いこむ。・・・これ、自慢の技。

裏地:各部分を縫い合わせるだけでなく、裁断後に端にロックミシンを使用するのが弊社の特徴。ひと手間で耐久性は延びる。写真は肩にフェルトパッド装着。

革本体に裏地を合体:ペアスロープの裏地は創業以来、伝統的にワインレッドが主体。それはオリジナルカラーの特注生地を使用する。
革ジャン製作工程


裁断:型紙から革に写しなぞった専用のペン跡をカッターで切る。なお革素材は一定の質ではない。どの部分をどこに使うかで、品質が左右される。

バーツ作り:ベルトやバックルなども革スキ機械を必要とし、時間の掛かる作業。写真は1着分。これだけでも2時間は掛かる。

エリは重要行程:革ジャンの顔とも言われるエリ。革の部位の選択も当然ながら、その糸使いには神経を要す。きれいな曲線は腕の見せどころ。

革本体の縫製:作り終えたエリや各パーツを革のボディに縫い合わせる。強度を必要とするところはWステッチ。その間隔は均一に、しかも平行に。

仕上げ:写真はほぼ最終工程であるフロントファスナーを縫い合わせるところ。ここで失敗すると真っ青になるので、いちばん緊張する場面でもある。

糸切り処理をして完成。



先を急がず、丹念に・・・。

 ペアスロープ夫婦坂工房では、縫製業としてあまり一般的ではない“ポストミシン”が主流。その特徴は、曲線縫いを得意とするが、直線は苦手。台が均一水平である通常の平(ひら)ミシンとは逆である。
 直線縫いは克服すればよし。大事なのは、可能な限りきれいな曲線の糸を描きたい・・・だから創業当初からポストミシンを使っているのです。

 納期さえ守れば、どんなにゆっくり縫ってもいい。急ぐ必要などない。
 まだ弊社店舗にお越しいただいていない方に申し上げます。もしご来店いただけたなら、デザインや材質だけでなく、着心地だけでもなく、そのステッチもじっくりとご覧ください。ルーペ持参なら、なおご理解いただけると思います。

S-30スタジアムジャケットの胸のWネーム縫製





アフターサービス用ファスナー:革ジャンだけでなく、ペアスロープ全製品には裏地にファスナーを付けている。これはジャケットが破損した場合にポストミシンを通して修理する弊社独自の細工。・・・けっしてポケットではありません。




夫婦坂工房内:1階店舗と同じ面積に4名の縫製職人+パタンナー1名がこつこつとモノ作りに励む。


 ペアスロープには、腕をめきめきと上げている1993年設立の“あさま工房”、そしてすでにたっぷり技量のある“柴又工房”があり、よきライバルとなっている。そのなかでの夫婦坂工房、それがメイン工房と謳うからには、ぜったいに負けるわけにはゆかない・・・と、5名の職人はクチに出さずとも、思っているのです。




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