なにゆえに三橋さんは鉄ちゃんなのか……は置いといても、なにゆえ栗焼酎にこだわるのか……は書かねばなるまい
――むかし、むかし、夫婦坂という茶碗のような坂に、或るおじいさんが住んでおりました。おじいさんは、毎日のように近所の“あがらば”という居酒屋さんで、土佐の栗焼酎“ダバダ火振(25.2度)”というお酒を飲んでは饒舌になっていました。
 ところが、ある日、ひょんなことから土佐に詣でることになり、調査のために電子瓦版を見ていると、四万十川の土佐大正駅付近に蔵元である無手無冠があるではありませんか。しかも、そこには見たこともない特別限定古酒があったのです。おじいさんは、何とかしてこの蔵元を訪ね、四万十ミステリアスリザーブという古酒(栗焼酎33度&四万十大正35度)を手に入れようと考えました。そこで「幕末の志士である坂本龍馬もこの焼酎を飲んでいたに違いないから、ここへは行かない訳にはいかないだろ」という、少しおちゃめで理不尽な理由を考えましたとさ。めでたし、めでたし――

「そんな訳ないじゃないですかぁ、三橋さん。龍馬は高知城下の生まれ、無手無冠は明治26年創業ですよぉ。暗殺されてから26年もたってんじゃないすかぁ」
 などという、司馬遼太郎もびっくりの会話を交わしつつ、店の前にキュキュと到着。三橋さんたら、すげー勢いでバイクから降りると、店の前で目に涙浮かべてるし。



 涙をシュッとキップ牛の袖で拭った三橋さんは、とるものもとらず店内に消えていく。そらもうスンゴイ勢いで試飲して、限定古酒栗焼酎という、東京の家族に送った伊勢エビ&足袋エビセットよりも高価な2本のお酒をめでたくゲット。ついでに私もゴキュっと試飲して良い気分。だいたい、試飲ってのは、ペロッと舐めて口のなかを泳がせて、ペッと吐き出すモンなのに、ペッがどこにもなかっぺよ……! かたや大島さんは冷静に撮影を済ませ、うどん先生は冷静に店内を観察してる。この微妙なノリの差はなんだ、バクバク隊?


 呑んでるふりじゃ。でも美味い!
四万十源流栗焼酎(900ml 33度 ¥5,500)と四万十大正栗焼酎(35度 720ml \5,000)
左が国産栗50%、右は75%と違いはあるが、さてその2本の味を一言で申しますと、焼酎という概念が頭からふっ飛び、かなり荒っぽい表現だが、極上の、それもキレの良いウイスキーといった感じ。さすが4万10時間(四万十という我々バクバク隊以上のコジツケ)地下貯蔵庫に寝かせただけのことはある。いつも呑んでいるノーマルの栗焼酎「ダバダ火振」(25度 900ml ¥1,343 栗50%)の方がほのかに栗の香りを楽しめるが、上記2種は別格といったところか。 ※上記の栗焼酎は直接蔵元に申し込んでも、品薄のためか通販不可。ノーマルなら何処か探せば売っているのだが、極上品入手は至難の業。土佐大正町まで行くしかないでしょう。
[酒のコメント 三橋]


 どーでもいいけど、やっぱり川ってのは、谷筋になるんだよね。だから、夕暮れがいつも以上に早いんだ。なのに悪のりして鉄ちゃんの耳元で囁いちゃったんだよね。
「すぐ近くに土佐大正駅ってのがありまして、そこの看板は未だに“国鉄”って描いてあるんですよ」
 
 シールがはがれたアトに「国鉄」の文字、
 よくよく見ると、大正、の下地に「田野々」とも。
 そうです、その昔この駅は、
 「国鉄 土佐田野々駅」であった。
 さて、いったい何時現在の駅名になったかは、
 めんどくさいので調べない。
                   [鉄道のコメント 三橋]

 もちろん行くんだわ、今日はとってもいい気分なことばかりだから。そんで、隣のガソリンスタンドで、ここまで来た快適な道を戻れば須崎まで1時間30分ですよぉと聞いても、やっぱ初めての道を通りますぅ、四国らしい酷道を堪能しましょう、なんつって細いと分かっている国道439号線(俗称 ヨサク)に進んじまうバクバク隊。本日の苦悩の始まりまであと10分……。
 439号線を檮原方面に走りはじめて、約10分ほどで白いヘルメットと赤い旗のおじちゃん登場。やられたぁ、と覚悟すれども、工事中だから25分ほど待ってねぇと言われる。


松の木ばかりが松じゃない♪
工事待つのも待つのうち〜♪
「なんぜよぉ、あいつら?」(オヤジ談)

  
「泣いてたまるか」 唄:渥美清
空が泣いたら 雨になる♪
山が泣くときゃ 川になる♪
俺が泣〜いても なんにも出な〜い♪

 まあ、工事通行止めってのは田舎道ではよくあることなんだけど、根っからの江戸っ子はせっかちだから本気で許せない。
「おぅおぅおぅおぅ、通れねぇってのはどういう了見だい? おいら江戸から出てきて、伊勢エビ食べて、焼酎試飲して、気分がすこぶるいいってのに、待てってな、カンベンならネェ。殺生でごぜえますぅ。どうか今すぐ通しておくんなせぇ」
「はい、よかったですねぇ。でも通れませんよ、まぁだ」
 いやだわ、江戸っ子は……せっかちで。でも、国鉄看板に誘わなければ、無事通過できたかも……。やべぇ、内緒にするぜよ。
 おや、大島さんはここぞとばかしに、携帯電話で自分の写真を撮ってる。いやだわ、都会っ子は……忙しくて。
 すると後方からも、車が数台。仕事帰り風のおじさんが、なぜ品川ナンバーと香川ナンバーが一緒にいるのかと疑問をぶつけてくる。さらに、先日は男だか女だか分からないバイク乗りがいたので、夫婦で議論になり、ためしに声をかけたら女だったという話をする。「前から見たら、女だった」と言やーいいのに「ぱっくり股が割れてら」と表現しなさった。見たのかよっ!! いやだわ、土佐っ子は……露骨で。
 ゲラゲラ笑っているうちに、やっとこさ開通時間。走り始めると、この道の凄まじさを思い知らされる。何度も通っているのに、“寒い”と“暗い”と“狭い”に加えて“たまには景色も見たい”が加わると、忙しい忙しい。しかも、真っ暗になる前に、国道197号線に出たい。車1台がやっと通れる広さながら、センターと両サイドに砂利や落ち葉が浮き、しかも3速に入れる暇もないほどヘアピンが続く。ツライぜよ……。でも、時たま深紅に染まった1本の木などがあり、美しくもあれば、この辺の寒さを実感したりもする道中。


 ヘットヘトのクッタクタになりながらも、ようやく皆無事に国道197号線の道の駅“布施ヶ坂”に辿り着いたのが18時。ここでヌクヌク暖まり隊の到着だぁ。なのに、18時で終了とはなんぜよぉ!? どこへ行っても道の駅にやられまくりじゃのう。
「尾原さん、手が寒いんですけんど……」
 などと軽くいじめつつ、缶コーヒーだけじゃ身体も暖まらないので、寒さしのぎにカッパを着込んで須崎を目指す。辺りはすっかり暗闇だし、ペアスロープのカッパはシックなデザインで派手じゃないから、雨じゃないのに着ても違和感がない。ペロペロのギンギラギンでもないから、貧乏くさくもならないのが嬉しいぜよ。もちろん、雨にも最強ぜよ!!

[RE-02 レインスーツ]

 須崎への国道197号線は、ひじょうに快適な道で、流れるペースもいい。さすが龍馬が脱藩に使ったルートだけのことはあるね。当時は国道じゃねーけどな。
 真新しい高知自動車道須崎東ICで、やっとこさ高速にのって、高松自動車道善通寺ICを目指す。やっぱり高知市のあたりは、ほのかに暖かく(正確にはさほど寒くなく)、南国ぜよぉぉとアクセルを捻る。ほとんどが片側1車線で、高知市を過ぎると極端に高度を上げつつ、トンネルも多くなる。こう寒いとトンネル大好きぃ、ここ掘れワンワンとか独り言でも言いつつ乗り切るしかない。その独り言にも飽きたころに、めでたく善通寺到着。その昔、「土佐日記」で有名な紀貫之は、土佐から大阪まで愛媛を回って50日余りを費やしたというのに、バクバク隊は須崎からほんの1時間半くらいとは、文明開化ですな。

 ここからは、地元代表のうどん先生が先頭。地元に戻って、急に活き活きして、ビュンビュン走るうどん先生。なのに、ホテルの場所は把握していなかったりして、停まって道を訊ねたりしつつ、今日もよく走ったなぁと感慨に耽っているユルイひととき。と、高速の途中で三橋さんのGSFを交換して乗っていた大島さんが発進でクラッチ操作をミスって、立ちゴケ、グワッシャンだぁ。すぐに助けに行きたいけれど、慌ててこっちまで自爆スタンドの餌食になるわけには行かぬと手間取ってると、三橋さんがキレまくりですっ飛んできた。さすがオーナーだ、笑いがないぜよ。まあ、大島さんに怪我がないから、良しとしましょうや。コケないバイクじゃ詰まらないでがしょ。と、自分を含めて言い訳モード。引力バンザーイ。


 なにが「良しとしましょうや。」だ!
 釣り竿を壊され、BMも倒され、おまけに
 一番の愛車GSFまで、、、。
 いったい私に何の恨みがあるってんだ。
 べらぼーめぃ〜!!
          [怒りのコメント 三橋]

 キズが痛々しいGSFクランクケース

 今日は、前半がかなり快調だっただけに、後半のバクバク隊の崩れっぷりは気持ちがいいくらいですなぁ。そんでもって、ホテルにチェックインして、すぐに隣の居酒屋にチェックイン。ここで、メニューにうどんがあるから、明日への前哨戦も兼ねて、最後はこれで締めましょうと盛り上がっていると、水を差す声あり。
「僕はいいです……」
 うどん先生は、こんなところじゃうどんは食えないとおっしゃる。でも、私らは先生じゃないから、あらゆるレベルに接し隊。しかも「案外うまいっす」とか言ってるんだから、期待の美味うどんツアーを仕切るうどん先生も、ガックシだ。
 でも、翌日はうどんバクバク隊はっしーん、ぜよ!?
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