最終話 2006年5月19〜20日

関アジ、関サバで有名な大分市の佐賀関から、フェリーで四国に渡る。料金はバイク(750cc未満)¥1,050と人¥730で¥1,780はリーズナブルプライス。


船首を大きく開けた入り口から、まず最初にバイクが入る。たいして大きな船ではない、揺れるのだろうか。


 船はゆっくりと岸壁を離れ、雨の九州の旅を終える。ほんの70分、豊後水道を横切り、愛媛県の三崎に向かう船旅だ。
 出航して数分、船は海上を滑るように進んでいる。2時間前には台風が心配で、このフェリー会社に欠航ではないかと電話で問い合わせたが、「なんとか大丈夫でしょう」との返事だった。「なんとか」というのが気になったが、その言葉が現実のものとなる。・・・そう、外海に出るなり、もんのすごく揺れるのである。
 「このくらいの揺れは気持ちいいですわ」と強がり言っていた尾原も、10分後には無言を押し通す。そして海の男、私は、、、「気持ち悪うなったでごわす!」
波静かな九州の入り江を離れる。しかし台風はすぐ近くに迫り、こんな状況はいつまでも続かない。

雨の為の落石か、国道197号に通行止めあり。片側通行の迂回を余儀なくされる。


松山自動車道 伊予灘SAから西の海を写す:悔しい事に、長州や九州方面は陽が差しているが、我ら頭上のドス黒い雲はいったいなんなんだ。

 松山自動車道、高松自動車道を、頭上の低気圧の固まりと並走しながら風雨に耐え、やっと高松市屋島の尾原邸に到着。尾原はあれこれと旅の苦労話を奥さんに語り、タイミングを計って例の“大島紬”ワンオフジャンパー購入の話を持ち出す。しかし素直に首をタテに振る奥さんではない。
 「なら、わたしのも作ってちょうだい!」 に尾原は「すっごく高いんだぞぉ!」 ・・・もう負けである。
 なぜに 「高い!」 を言ってしまうのか。その言葉はご法度だ。私ならこう言うだろう。
 「旅の道中、ニッポン古来の美と技を伝える職人に出会った。その素晴らしい伝統工芸品を着れば、その心が伝わり、もっと良い仕事ができるだろう。それを着ることは私の義務以外の何ものでもない!」
 カネのことはいっさい触れず、一生懸命に仕事するぞ、を強調して伝える。 まっ、昔、親に 「勉強するから新しい机買って!」 と同じようなものである。

 さて翌朝、もう4日目だから驚かないが、ドシャ降り。あと東京まで800キロ弱の一人旅だ。


雨が止んだ“明石海峡大橋”通過。しかし霧でつり橋のロープの先すら見えない。バイクが傾いているのは、突風で斜めになって走っているため。




 高松からひたすら走り続け、雨の名神高速道路も名古屋に近づくころに昼、さてどこでメシにするかと考える間も無く電話を掛ける。
 「あっ、兵頭さん?打ち合わせがてら、いっしょに昼飯喰おう、ウナギね、ウナギ!」
 仕事の打ち合わせなんて何も無いが、浜松のヒョウドウ プロダクツ社長である兵頭氏に突然電話し、ウナギをご馳走させようって魂胆である。

兵頭氏に連れてってもらった、浜松のウナギ屋はお世辞ぬきでほんとに旨い。

 ヒョウドウ社は、弊社とは同業社であり競争相手でもあるのだが、いろいろと協力してもらっている。そう、“もらっている”立場なのに、実に無礼なのだ。東京に来た時には、たくさん酒呑ますから勘弁してちょうだい。(軟弱にも、氏はアルコールまるでダメだが。)









「ご馳走してやったゼッ!」 サイフ片手に悠然と引き上げる兵頭氏。



 おいしいウナギをご馳走になった。聞きしに勝るヒョウドウ プロダクツは、とってもいい会社だ。(もし兵頭氏が昼飯の誘いを断っていたら、さてどう書いていたことだろうか?)
 ウナギのお陰で、体力、精力ともに蓄えられ、東京まで二百数十キロの最後の力走。静岡県内は雨も止んで快調に走る。時おりバカッ速い車を追ってメーターを振り切るのもご愛嬌。

 すっかり陽が暮れ、やっと我が家に到着。鹿児島から3泊4日、1700キロ、なんだかレインウエア着用率90%の旅であったが、こういった雨の旅があるからこそ、快晴の時の感動が大きいのだ。前向きに考えることにしよう、人生も晴ればかりではないから。。。




 男のカワサキ ゼファーで、男、薩摩藩を巡る旅は終わった。今年はこれまで、数々の旅をニッポンのバイクで走っている。長距離でも信頼できる相棒だ。
 しかし、我が国産バイクメーカーは、性能を追い求めることに費やした時間が長すぎた。だからいまひとつ魅力あるモノが少ないのだろう。
 バイクウエアメーカー、いや弊社だってそうかもしれない。機能や性能ばかりに気を取られていると、格好良さなどどうでもよくなってしまいそうだ。そうあってはならない。
 今回の旅で、あらためて実感した。
 ・・・着ることに満足感を得られ、人からも「カッコいいね!」って言われるウエア作り。
 美と技を合わせ持つ、伝統工芸品 “大島紬”から、多くを学んだ。
ペアスロープ 三橋





[ あとがき ]
大島紬にはたいへん魅力を感じた。しかしそれをこの旅サイトで表現できるのはほんの一部分にすぎない。あまりにも奥が深いのだ。そこで専用サイトを作ることに。
 紬を使った弊社による男のジャケット製作記、
さて、伝統工芸品との融合は、いかなる製品、いや作品ができあがるのか、お楽しみに。(2006年7月から発信予定)

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