薬師寺の夕日を見ながら奈良市内のビジネスホテルに向かう。野郎二人が次にすることなど猿でも分かるように呑み屋を探す。
 初めての呑み屋ってのはアタリ・ハズレが常である。ましてや観光地となればハズレの確率のほうが高い。それをどうやって吟味するかは、経験上の“感”でしかない。さて今夜は、、、。

歩き回ること15分。なにやら怪しげな呑み屋を見つける。

奈良で鹿刺しを出すと、店主いわく「9割のお客さんが奈良公園のかい、って聞かれる」。だからエゾシカと書いたそうだ。それにしても可愛らしく書きすぎだ。食いづらくなってしまうじゃないか。


昼間に撮った奈良公園の鹿は神様の使いである。これを捕まえて食ったりしたらバチが当たるし、手が後ろに回る。実際に食ったのは北海道のエゾシカである。
 観光地の場合、旅館・ホテル街の呑み屋には行かないのが俺の鉄則である。少々歩いても、地元の商店街周辺を探す。少しでもハズレを引かないように。
 ここもダメそこもダメと5〜6軒目で、ある居酒屋が目にとまった。すし、天ぷら、刺身、焼き鳥なんでもアリのメニューが並ぶ。ちょっと怪しいが、もう歩きたくなかったので入る。
「いらっしゃい、まずナニ飲まれますかぁ?」
「じゃあ、生ビール二つくださ〜い」
 オヤヂ一人で営んでいる。他に客は1組。こういった店は、案外いい酒・つまみを出すかもしれない、、、と待つこと4〜5分。
「お客さん、ナニ出しましょか?」
 さっき生ビールって言ったろっ、と言いたいところを抑えて、再度伝える。のどが渇いていたのでグビッと飲み干し、今度は梅サワーを注文。また4〜5分経過しオヤヂと目が合う。
「お客さん、ナニ飲まれます?」

 オヤヂが奥に氷を取りに行ってるあいだに小声で尾原に話す。
「このオヤヂ、注文してもすぐ忘れちゃうなあ。30分で3品目だぁ。ということは勘定もたぶん何品かモレるなあ、こりゃぁ。」
「では馬刺し、鹿刺し、フグの白子焼もいっちゃいましょう。」
「おぅ、ここぞとばかり高いのばかりじゃねえかぁ、セコイぞ尾原庄助、ハッ、ハッ、ハァ〜」

左が馬刺しで右が鹿刺し、共に北海道産、一皿およそ1500円。馬刺しには少々うるさい筆者のこの店の味の感想は、いたってフツ〜、鹿刺しの方が旨かった。しかしどうにも馬刺しは愛らしい奈良公園の鹿が、馬面石野も脳裏に浮かんで、、、。

 けっこう呑んで食った。撤収だ。さていよいよ待ちに待ったお勘定、そんなのを楽しみにすることなど、そうあることではない。
「大将、ご馳走さまぁ〜」
「へ〜ぃ、おおきにぃ〜」
 電卓を不器用にたたきながら、注文した品が書かれた伝票を見せるように勘定を言う大将、
「1万○千○百円!」 ・・・限りなく一人1万円だ。見て見ぬふりをして伝票を除くと、馬刺し、鹿刺し、ふぐ白子焼はもちろんのこと、馬レバ刺し、おしんこ等々、尾原が一人で食ったハモの天ぷらまで、忘れてたはずのビールや梅サワーの数まで、こと細かく記入されていた。

珍味 馬レバー刺し:シコッとした触感で、なかなか旨いもんですなあ。高いけど。
 「どこが物忘れオヤヂなんだ尾原庄助!話がちがうじゃねえかぁ!」 
 初めに生ビール、そして梅サワーと明石タコの唐揚げを忘れられたのは大将のフェイントだったのか。セコイ考えの客はいるにちがいないから、たくさん注文させる大将の作戦だったのか。いずれにしてもチンケな考えを持った我々が馬鹿、まともなモノをまともに支払っただけなのだから、怒りを覚えることなどことさらなく、いわゆる、旅のひとつのジョークなんですわなあ。。。


 馬ジャンも鹿ジャンも、坂上クローゼットカーが東京に持って帰っちゃって、もうここにはないけれど、かわりに馬も鹿も食ったし、まあ良しとしようと馬鹿オヤヂ二人は宿に戻る、、、途中でラーメン屋に寄って麺をたしなむ、、、がマズイ。

 なんだかねえ、シャキッとしない今日一日であった。明日はどこに行こうかなどと考える気力なく、明朝に飯でも食いながらテキトウに何処か行こうということで爆睡、、、もう計画性まるで無し。
猿沢池と興福寺の五重塔。酔っぱらって写すからブレてるしナナメになってるし。

[ しかしまあ、ネタがないのバレバレですなあ。居酒屋だけで1ページ使っちゃうんだからネエ、、、スイマセン。
次はとうとう最終話。やはり被写体もいないし革ジャンもなく、あるのは一対のカメラ・レンズとウドン先生尾原。
さてどうやってゴマカス、、、いやいや乗り切ろうか・・・?]

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