■ 繊維の進化

 その昔、繊維製品は弱いというイメージがありました。軽さという長所はそのまま弱いというイメージに繋がっていたのです。しかし、とくにこの10数年の進化は目を見張るものがあるのです。それは、繊維自体の進化もあれば、周辺加工の進化もあり、それが総合評価としてまとまっています。
 初期のペアスロープでは、その着心地と肌触りの良さを優先して、繊維製品はコットンを中心にラインナップしていました。現在でもそうですが、昔はとくに自然素材であるコットンとナイロンとの肌触りの差は歴然だったのです。ジーパンにせよ、肌着にせよ、靴下にせよ、コットンの着心地を超えることはひじょうに難しいのでしょう。かつて、コットンにフィルムを装着したプルガーという素材を商品化したこともありましたが、やはりフィルムにより肌触りが劣ってしまったのです。

 しかし、防水性への要求が高まったこともあり、次第にナイロン製品中心のラインナップへと移行しました。その大きな転機というのは、1990年代前半の防水・透湿フィルムが登場です。それによって防水性能は大きく変わりました。さらに、ここ数年では以前から定評のあった防水性に加え、透湿性も格段に向上しました。

 ナイロンの素材自体も進化し、コットンライクなナイロンが登場しました。弊社でも現在は、このコットンライクなナイロンを使用しています。また、強度の進化も特筆ものでしょう。とくに引っ張り強度が増したことが大きな進化です。以前は、厚みを増す以外に強度を上げることはできませんでしたが、現在は薄いままである程度の強度は得られるのです。



S-260Dに使用のサイトスナイロンと強化ナイロン。
ジャケット本体は防水に優れたナイロン、肩・ヒジなどの補強は強度あるナイロンと、繊維製品は適材適所で優れた素材を使い分ける。

 さらに表面加工の進化があります。テフロン加工やビフォンド加工といった撥水効果の高い表面処理によって、繊維ジャケットはより雨に強い素材となったのです。しかしこれらの加工は、寿命の長いものではないので、まだまだ進化の余地があるともいえます。

こちらはRE-02レインスーツに使用のビフォンド加工サイトスナイロン。優れた耐水・透湿性を持つサイトスナイロンに、高い撥水能力を持たせるビフォンド加工を施したペアスロープオリジナルのナイロン素材。水をはじく効果は、乾かすときや収納時にも便利。また、耐水性能を補うという意味合いも持つ。

 サンステートは、18年前から使っている防寒素材です。軽くて、薄くて、暖かいという魅力は現在でも衰えていません。当初は皮革製品のインナーとして商品化したもので、当時はいかに中綿を厚くするか、もしくはダウンやムートンを使用するかしか対策がありませんでしたから、革命的存在だといえるのです。

軽く、薄く、かさばらずに動きやすいサンステート素材。身体の表面から奪われる放射熱を表面のアルミ蒸着で反射し、それをミクロの繊維が閉じ込める。このことによって薄くても高い効果を得ることができるのです。



 デザインでの進化も大きいでしょう。基本の型は皮革製品にありますが、より機能的な進化への要求に応えるべく、ポケットの位置や袖口の加工など使い勝手の良さを追求しています。一口でいえば、浪漫を求める皮革製品に対して、機能を求める繊維製品といったところですか……。まあ、一概にそうはいえませんかね。
 それでも、繊維製品の進化はこれからもまだまだ続くといえますし、それが面白さでもあるのです。
皮革製品、繊維製品、どちらを選ぶにせよ、ここまで読んでいただいた方は、そう大きな選択ミスはないことと確信いたします。どうぞご自分のベストなライディングスタイルを。


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