文・:三橋弘行 2008年3月7日 送信
[ 前編 ・後編その1.・ 後編その2. ]


 我がブーツは完成までに130工程の作業を必要とする。左写真で花田氏が持っているアッパー(上部革部分)は全工程の3分の1程度で、そこからソールを付ける作業が実に長い。とはいえ、そのアッパーの縫製ですら一人で一日平均4足分しかできない。「R-01(ジップアップタイプ)は一日たったの3足分ですよっ!」と工場の製造部長氏が嘆いていたほどである。
 工場内には100人強の人々がそれぞれの持ち場で手、そして足を動かしている。機械を使ってはいるものの職人的な技を持ち合わせている手作業といえる。

 さて、ここから先の生産工程解説は、筆者ひとりではとても心もとない。以下、それぞれの作業説明は花田氏に手伝ってもらおう。
 その見せ場はもちろん“グッドイヤーウエルト製法”である。


工場にはさまざまな“リーガル”ブランドの靴が目に止まる。そういえば前日、事務所での打ち合わせで、「新製品や試作品をぜったい写さないように!」との注意事項があったが、私にはそれらの靴と現行品との区別がつかない。もし写ってたら申し訳ないことです。


 まず初めにブーツ(R-02)の分解写真をお見せしよう。このなかでグッドイヤーウエルトに関わるもっとも重要なポイントは■細革、と■練りコルク。この二つだけは忘れないでいただきたいなあ、と。

 なお、一般的なグッドイヤーウエルト製法の紳士靴・ブーツの作りとの大きな違いは、“くるぶしパッド” “チェンジパッド”にある。その他、細かな点もあるが、またのちほどご案内しましょう。


裁断・製甲(アッパーの縫製)
 R-01・R-02のブーツはワンランク上の革素材“キップ牛革”をおごった。もうその時点でコストダウンという言葉から離れているが、良いものを作るには、まず素材から。
 さて、それでは製作開始。裁断・製甲といわれる作業は、弊社革ジャン・グローブと大きな違いはないので、解説は少々簡略化。すみません。
1. 革を裁断機にかける。この裁断作業は革の特性を知り尽くしてなければできない職人技である。


3. アッパー(上部革部分)の最終縫製作業。ミシンは弊社革ジャン縫製と同じものを使用。

2. メダリオンと呼ばれる飾りつけを施す作業。ブーツの顔作りと言えましょうか。


4. 早くもアッパーの完成。なんとなくカタチにはなってきたが、ここから先の工程が長〜い。

つま先のチェンジパッド部分はご覧のように二枚革。上部の方が薄く見えるのは端っこのみ革を薄く削っている為。なお、内側にある白い革がピッグスキン。それはソフトで吸汗性が良い素材であるから。


底付け(グッドイヤーウエルト製法がポイント)

 ここからが長〜い道のりなのだ。42.195Kmのマラソンでいえば、縫製作業は10数キロといったところである。
 ラックには“木型”が用意されている。アッパーを付けたその木型とともに、何十人ものそれぞれ職人さんの持ち場へと移動する。
 “グッドイヤーウエルト製法”が、なぜ「ハイレベルな靴の代名詞」と言われるのか、なぜ「歩きやすい靴」なのか、「高価」なのか、ここで解説しましょう。

ウエルト製法ならではのリブ(一周ぐるりと飛び出した白い部分)の付いた中底。それを仮止めした木型。(木型:“木”ではなく現在は樹脂製)

1. これはペアスロープ R-01・R02専用の木型。これがなくてはブーツはできない。


3. 前部分の“釣り込み”作業で立体的に整形される。若い人の真剣な表情が印象的である。


5. 中底にクギを打ち仮止めする。トンカチのような、そうでないような、、、。


7. でっかいホッチキス機械のようなもので、アッパーをリブにとめる。


2. カカトに芯を入れて、熱と圧力でアッパーに固定し、同時にカカトを立体的に整える。


4. 左は釣り込み作業前と、右はその後。それにしても綺麗な立体になるものだと感心する。


6. ここまでの作業を入念にチェックする。左右に作りのバラツキがないかどうか。


8. こっ、これは懐かしいサドルシューズ! ついついリーガルブランドにも目がいってしまう。。。


 ここから先が“グッドイヤーウエルト製法”の重要ポイント、アッパーに“細革”を縫い付ける工程が始まる。
 花田氏のとなりにいるちょっと太った人、、、そう、2006年10月にここを訪ねたとき、初めてお会いした、あのニコニコした人、資材部の田口氏・・・が手に持っているのが“細革”。
 なお、細革の説明に、なぜ笑顔の二人を載せているのかは、細革だけの写真を撮り忘れていた以外に理由はない。


アッパーに細革を縫い付ける。これが、百数十年前にチャールズ・グッドイヤー・Jr.さんが考案したとされる機械なのであろうか、、、?。


1. これはブーツの姿を隠しているのではありません。作業中、汚れないようにする気配りなのです。


3. 中底のくぼみに落ちてくるのは、半練り状態のコルク。そういえば、この作業は女性だ。


2. 中底にスチールシャンク(土ふまずを支え、底のゆがみを抑える役割)を入れ、さてここからが見せどころ。


4. 温かい練りコルクをコテで素早く隅々に伸ばしてゆく。今日、この作業は弊社ブーツだけのスペシャル。


おばちゃんは、左官屋さんのごとく綺麗にコルクを塗り込んでくれた。・・・これ、このブーツ自慢の工程なのです!

 中底の隙間にたっぷりと入れられたコルク。それが何を意味するか話そう。

 新品の革靴は履き心地が良くない。しかし履いてゆくうちに革は堅さをゆるめ、窮屈なところは伸びが発生し、足になじんでゆく。ここまではどの革靴にも言える事である。(安っぽい革素材は除外)

 では、そのころ中底のコルクがどうなっているのか。

 靴の底に体重がかかると、コルクはわずかだが足の裏のカタチに沈んでゆく。極端にいえば、粘土についた足跡みたいに。 
 ・・・これがより馴染みやすく、歩きやすい靴となる要因なのである。高品質なキップ牛革素材と練りコルク式の合わせ技は、悪かろうはずがない。

※グッドイヤーウエルト製法が全て練りコルク式ではありません。どちらかといえば、ほんのわずかな少数派。なぜ?って、手間(コスト)が掛かるからです。


 一生懸命作ってる職人さんたちの姿を、こちらも一生懸命カメラに収めていたら、いつのまにか昼休みの時間。腹が空いていたことも忘れていたが、とりあえずメシを食う。


十数名でトンカツ。新潟の米も旨い。


昼飯ののち、ふたたび工場へ。


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