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 それにしても、昨夜のバーベキューは悲しかった。テーブルに並ぶカツオにイカに土佐牛に刺身……食材だけを挙げれば、決して悲しい内容ではない。けれど、寒さに震えながら食すってのがバーベキューなのかいってんだ、べらぼうめい。痛々しくっていけねぇ。バーベキューってのは、もっとハイディホーでヨロレイヒーな雰囲気でがしょ、本来は。これが、はなから寒中キャンプでごんすとか、雪中行軍なりーなんて、覚悟キメキメならば、食事は楽しいひととき以外のなにものでもない。でも、すぐ隣りに暖房がガンガン効いている部屋があって、7時のニュースが流れているってのに、その15m先でブルブル震えているバーベキュー隊ってのは哀れすぎて軍法会議もんなのである。










  





 さて、そんな寒中合宿の夜が明ければ、暖かな陽射しと穏やかな海。これじゃ、これじゃ!! これが四国に望んでいた気候ぜよぉ。聞けば、12月でも、目の前の海で泳げる日があるらしい。ほがらかな気持ちで、しばし朝の談笑などをしていると、三橋さんがややうわずった声でこうおっしゃる。
「ライダーズインでの朝飯はどうすりゃいいんだい?」
 やべぇ……。てっきり食べずに出発するのかの思ってたぜぃ。歌ってごまかしちゃお。
「こんな小春日和で、穏やかな日は、あなたを、グルメに誘いたい〜♪」
「だから、何が言いたいんだよ」
「今日は結構なお天気でやんすから、ついに、待ちに待った美味しいものをたくさん食べたいじゃないですか。絶好のグルメ日和じゃないですか。ゆえに、朝飯もここでは食べないのかと……」
 そうかぁ、食べるつもりだったかぁ。せめて、三橋さんだけでもバイクに乗せて揺らしてみようかな。酔って食欲なくなるかもしれねぇ。そうなんだよ、ライダーズインは基本的に素泊まりの宿だから、夕食も朝食もないんだよなぁ(カップラーメンくらいはあるけど)。こんなことなら、昨日の市場で仕入れておけば良かった。いやぁ、失敗。でもまあ、こんなにいい風景と快適な設備を格安な料金で手に入れたんだからいいじゃないですか。

ライダーズイン中土佐は、眼前に小矢井賀の浜の砂浜が広がり、夏なら海水浴やダイビングも楽しめる。ゆっくりと連泊したいのんびりムード溢れる宿泊施設だ。宿泊料金は1人3000円、2人5000円、3人6000円(1室利用)。各部屋の前に駐車場があり、トイレとシャワーも各部屋に完備。バーベキューセット、布団、シュラフ、マット、簡易ベット ストーブ、冷暖房セット、ガスコンロなどのレンタルもあり、ツーリング情報交換の場としても最適。中土佐の他に、目の前に四万十川の清流が流れる四万十、四国カルストに程近い檮原、室戸スカイライン途中の室戸、剣山ツーリングに最適の奥物部にも同施設がある。

なぜかロッテのガム自動販売機。
朝飯にはならないのである。
スタッフのおばちゃんにはずいぶんとお世話になった。 本日の行程会議中。
 管理人さんのご厚意で、暖かいコーヒーをいれていただき、本日の予定などを検討。
「伊勢エビと栗焼酎ははずせないぞぉ、諸君」
 三橋隊長が、聞き込み調査を実施中だ。昨日の、土佐久礼大正町市場で伊勢エビも脂ののった戻り鰹も手に入らなかったので、四国グルメ紀行を目指したバクバク隊も、いまや風前の灯火。寒さに負けて、食べ物にも負けるチープなマケマケ隊だ。なのに朝から良い返事は引き出せない。午前中のうちに伊勢エビ料理を振る舞ってもらえる宿や料理処も見つからず、しかも1人前6000〜7000円以上もするという。もうこの際チープでいいやっ、という気持ちにもなろう。
 ところが、現在位置から南に向かって峠を一つ越えた窪川町志和集落の港なら、伊勢エビが手に入るかも知れないという情報を入手したのだ。さすが革製品の勝海舟、情報の回収も見事ぜよ。
 そんなこんなで、出発しようとしていると、尾原さんがごそごそと荷物を広げ始めるではないか。なるほど、腹を減らした欠食自動二輪おやじ隊に、密かに隠し持ってきたカトキチの冷凍うどんでも振る舞ってくれるのだな。さすがはうどん先生! ブラボーぜよ! と抱きつきかけたところ、試作グローブを並べていらっしゃる……。

 季節はずれのメッシュグローブは
 たくさん持ってきたけれど……
 なぜか防寒グローブはひとつもない。

 おぅおぅおぅ、先生
 ちったぁ、あったけえの出してくれや!
 だいたい、メッシュじゃなくてメシだよぉ
 欲しいのは……
 まずいっすよ尾原さん、ライダーズインだからって、いきなりお店開いちゃ。しかも、もう他のお客さんはとっくに出発してるじゃないすか、なんてことを思っていると。
「みなさ〜ん、今日はどのJRPグローブを使いませうか?」
「うつけ者ぉ、おつけものならまだしも! グローブはペアスロープに決まっておろう、 おいらはキップ牛グローブひとつあれば良いのじゃ、べらぼうめ」
「べらぼうとはなんですかぁ。僕は讃岐人ですよぉ。棒と言えば麺棒だけにして下さいよぉ。もう、まったく……あっ、申し訳ありません、つい興奮してしまって。あの、使ったあとは、さしあげますけど」
「えっ、そうなの。じゃぁ、ひとつ。JRP良いよね。今日はこれを使い倒しちゃおうかな……綿棒ちゃん」
 といったやりとりに時間を費やし、晴れて出発はチェック・アウトぎりぎりの10時過ぎ。
 なんか、今日は長くなりそうな予感、伊予かん……土佐なら文旦。

 暗くなったら絶対走りたくないけど、小春日和のもと時折海も見えて快適な峠道をスチャっと越えて志和港に到着。獲れたての伊勢エビで賑わう漁港を頭に描いていたものの、そこにはやけにの〜んびりした田舎のちいさな港風景があるだけ。さっそく、港に向かう道すがら漁師風のお兄ちゃんに質問してみよう。
「一昨日で終わったわ……今はないかなぁ」
 一同ガックシ! マケマケな気分である。
 そのまま、港を背に走り出すも、三橋さんが伊勢エビへの未練捨て難しなのか、腹が減っては戦はできずなのか、おそらく集落唯一だと思われる喫茶店“なごみ”へ入る。

 ここまでの行程で食べてきたものは、どちらかと言えばチープな香り漂う和食中心。いわば維新前の日本国。しかしマケマケ隊はひょんなことから、この“なごみ”で文明開化の扉をトントンと叩くことになる。トーストとコーヒーである。もうカタカナばっかりなのだから、文明開化の音でござんしょ。無理やりですが……。
 しかし、扉は簡単には開かないのがマケマケ隊の食道楽。
「ごめんなさいねぇ、トーストきらしちゃって、1人に半分ずつしかないの……」
 再びガックシ、再びマケマケ。なぜかトースト&ヤキソバという異種格闘技的タッグに、氷コーヒーという、トンチンカンな組み合わせ。袴に革靴の龍馬ファッションみたいで、なにげに土佐っぽいぜよ。無理やりですが……。

ちなみに、龍馬先生のクツです。

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