高松から東に走ること約30kmで、JRPのお膝元である白鳥町に到着。白鳥町は明治期より手袋産業が栄え、現在でも両隣の大内町、引田町と合わせて国内産の手袋・グローブでは全国の90%以上の生産力を誇っているのだ。 |
さすがに、手袋の町だけあって、手袋うどん、手袋温泉、手袋駅、手袋神社、手袋福袋……など、あらゆるものが手袋ずくめ。ということもなく、唯一の実存である手袋神社を訪問。マジメな尾原さんが、毎朝出勤途中の参拝を欠かさないという噂の神社だ。 “手袋の町にある手袋神社!!”と聞けば、“讃岐平野で讃岐うどん三昧!!”に匹敵する催しではないかぁ、と激しく期待。神社の敷地内に入って、期待という紙風船が膨らみ続けているのに、なぜかバイクはキュキュと停止。ここは駐車場ですかぁ。ところがどっこい、気付かぬうちに、神社の前にいるという体たらく。パァン! シオシオな気分だ。 |
のぺっーとだだっ広い敷地に、ポツンと碑と銅像があり、その前では、なんと近所のおじさんがパッコーンとゴルフの練習中。聞けばここは白鳥神社の一角だとか。鳥居を支える手袋に、奉納された溢れんばかりの手袋……を予想していたのに、ライダーズインでの寒中バーベキュー合宿を思わせる寂しい風景。ここ数日、お参りができなかった尾原さんが、意気揚々とパンパン柏手を打つ後ろ姿だけがセンチメンタル。パッコーン、パンパン……。残る3人のおやじは、ただただ呆然と手袋製造技術を町に広めた棚次辰吉氏の銅像を眺めるしかないのだった。 |
さて、わずかな時間でJRP到着。JRPの中川社長と檜垣さんに迎えられ、さっそく今回試着したグローブの話題などを展開。 「寒かったですぅ……」 お話にならない第一声である。 「うどんが、とても美味しかったですぅ……」 お話にならない第二声である。そんな、困ったちゃんの私の話を、真剣に聞いていただいた後に、JRPグローブの縫製を担っている、大西さんの工房を見せていただく。 |
左から、JRP中川社長 檜垣部長、石野。 ものすご〜く真面目な会話中。 |
立体的な指の部分を、ダダッダダッとミシンを唸らせ、一つひとつ丁寧に、見事な手さばきで縫い上げていく。JRPのグローブはほとんどの縫い目が表面に見えているから、ごまかしようがない。しかし、直線、曲線に関わらず、その線に迷いがない。あっちにフラフラ、こっちにフラフラした我らバクバク隊の紀行とは大違いなのだ。 |
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その、指先の妙技に見惚れていると、後方で何やら三橋さんと大西さんの会話。贅沢にもキップ牛を使用しまくった、三橋さんのジャケットの革の話やら、ライディング・ベストの縫製の話題に華を咲かせている。 「おおぅ、良い革ですねぇ。捨てるところがどこにもない。この縫い方も素晴らしい。お母さん、こっちに来て見てごらんよ」 「そうでしょう。これは、本当に良い部分だけを使っているんですよぉ」 さすがは、職人同士の会話である。手触りを確かめながら語る大西さんに、縫い目を見て目を細めるお母さん。目の付け所が全然違うのだ。でも、工房の中だから、違和感がないけれど、これがその辺の食堂やら、サービスエリアの話だったら、エライ違和感だね。おじさんとおばさんとが集まって、すげぇ革オタクでマニアックな会話を交わしてるんだから。 |
隊長の着ていなすった STP-97 キップジャケット。 わかる人にはわかる。 わからん人にはただ高いだけ。 |
グローブの製造過程を見せていただき満足したので、JRPのすぐ近くのうどん屋へ。まだ食べるんですかぁ三橋さん……。という気持ちも抱えつつ、うどん+おでんという、讃岐的には極一般的な組み合わせに大満足。尾原さん曰わく「まぁ普通ですな」という味だけど、充分に美味しく感じる本日7玉目のうどんでゲフッ。 その後は、白鳥町の黒川温泉へ。中川社長と檜垣さんとの楽しい酒宴も予定されているし、その前に汗でも流しましょうかと、近所で入浴できる露天風呂へ。 「露天風呂には、この券を持っていって下さいね」 「この券があれば、何回でも入れるんですか?」 「ええ、入れますけど、露天風呂は9時までですからね」 ガチョーンな露天風呂ぜよ。んで、風呂に浸かってみると、わりとぬるい。 「こういうお風呂は、出ると寒いから、そのタイミングを見計らうのに困りますよねぇ。長く入っているにはいいんですけれどねぇ。とにかく、ぬるいぜよ」 |
なんて会話をしつつ、ダラダラと入浴。すると、それまで勢いよく流れていた風呂のお湯がピタリと止まる。そういえば「入浴時間は40分」と書かれていたぞ。よく見ていなかったけど、そういうことである。再びのガチョーン。う〜ん、なるほど、恐るべし讃岐風呂。強制的に出なきゃいかんぜよ。とはいえ、ぬるいと思っていても、案外身体はポカポカと暖かいのが、温泉効果なんだろうね。軽いフォローだけどね。 さて酒宴のはじまりである。寒中バーベキュー以来、風邪気味だったという言い訳で、とっとと新婚家庭にご帰宅なさった尾原さんは抜きに、JRPの中川社長と檜垣さんが温泉まで来て下さった。はっきり言って、マジメなこのふたり。尾原さんもまぜて「マジメ、マジメ、マジメ」と三菱コルト状態で、グローブやら世間のバイク事情やらに話が弾む。そうは言っても酒の席、やがては顔も緩んでいくけれど……。 |
それにしても、この日は貴重なことを学んだよ。製麺所で打ち立ての麺をいただくことは、うどんの麺を確実に味わう最高の方法だ。それぞれ個性が違っていても、その基本にある精神は同じなのだ。 最近は冷凍うどんもなかなか美味いと思う。でも、工場で一律に作られたうどんよりも、職人の手で打たれた、確実に上質なものを手に入れることができる世の中は幸せなのだ。 グローブも同じで、1枚1枚の革を見極め、1本の縫い目にも気を配って造られた製品を我々は選ぶことのできる幸せがある。 5玉で1パック300円のうどんならどこでも買えるし、味もそこそこ。でも、讃岐に来てうどんを食べれば、1杯は100円でも交通費とか、なんやかんやが掛かってしまう。それでも、いちどはこの、作り手の顔が見える味に触れてみる価値がある。今じゃ、数少ない国内生産にこだわっているJRPのグローブやペアスロープの製品も同じなんだろうね。 (写真右上から、讃岐うどん、JRP、ペアスロープとそれぞれの工房、そして職人の手) |
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今日は、「うどんを食べたんじゃなく、職人に触れた1日なんどわぁー、革も麺もコシがイノチぃ〜」と独り上手な瞑想最前線なわたし。実は、宴たけなわではございますが。 「今夜は愉快ですから、カラオケで黒田節♪、お聞かせしましょう」 と中川社長が切り出せば 「おいらは、ブルーハーツとウルフルズいっちゃいますぅ」 と三橋さんが若ぶっている。そんな組み合わせのカラオケって、怖くないか……? |
翌日は、約800kmをバビューンと走って東京着は21時30分。その間、雨が降ったり、粉っぽいお好み焼きにガックシしたり、キ○ガイトラックに幅寄せされたり……と話題は尽きないけれど、それはまたの機会で。 ここまで読んでくれて、どうもありがとう。 2002年11月 石野哲也 |
(なお、この物語は事実を基本に一部を誇大表現している場合もあるノンフィクションです) |
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またいつか、お会いしましょう。 |
関連リンク集
・・・三代目編集長 石野哲也氏から、四代目 菅生雅文氏へとバトンタッチ・・・ 2003年3月 ツーリングマガジン 「アウトライダー」 復刊のご案内 [次回予告] |
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幕末ツーリングなどと大風呂敷を広げてしまった以上、これから先も続けなければなるまい。 江戸の勝海舟に土佐藩(高知)・坂本龍馬と行ったから、薩摩(鹿児島県)・西郷隆盛、長州(山口県)・高杉晋作、そしてその薩長と犬猿の仲であった会津藩(福島県)、庄内藩(山形県)、新撰組の最後の砦・箱館(函館)五稜郭・・・と。 そうそう、日本に星型の城壁を残す五稜郭がもうひとつあるのをご存知だろうか? それは、ペアスロープあさま工房のある信州・佐久の「龍岡城」です。 なんとしたことか、弊社遊び場・洗足池の勝海舟から、幕末の五稜郭まで、まさに一直線でつながっていたのです。・・・無理やりですが。 もうこれは行くしかないでしょうな、石野さんよ〜。 でも、ツーリング誌でもないのにこんな事やってたら会社なくなっちゃうからね、ほどほどにね。 ってなことで、「幕末、喰い三昧:続編」 気長にお待ちください。 |
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夫婦坂ツーリング倶楽部 HP編集部 |
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