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3年ぶりの上陸 〜2日目〜 朝7時に船内放送が始まる。レストランや売店の営業時間を御丁寧に30分おきに知らせて下さる。やかましい!9時頃までベッドでごろごろしてから、目を覚ましにデッキに出てみた。快晴である。意外にも陽光がしっかり暖かく、初夏であることを思い出した。進行方向左手に陸地が見える。青森県沖からいよいよ本州を離れようというところだった。 デッキの陸地側はケータイが使えた。メールをチェックすると数十件の仕事メール。念のためタイトルだけ見て闇に葬った。昨日コンビニで買っておいたサンドイッチの朝食をすませてしまうとすることがない。この日記を書いて、ツーリングマップルを眺めて、あとは惰眠をむさぼる。 |
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13時14分、フェリーは定刻より1分早く苫小牧港に接岸した。晴れている。十数時間も横になっていたせいで、頭がぼーっとする。下船はクルマが先なのでしばらく待たされる。2階のFデッキに排気ガスがこもり蒸し暑くなってくる。早く外に出たい。船内作業員がクルマやバイクを固定していた車止めやロープを荒々しく取り外すけたたましい音が船倉に響き、嫌がおうにも気持ちが高揚してくる。 14時少し前にタラップを滑り降り、北の大地に上陸した。広い空と清々しい空気。フェリー港などどこも同じような風景だろうが、気持ちが高ぶっているせいで自分が北海道にいることが可笑しくてしようがない。クルマの流れが速い。幹線道路は80km/h以上で流れている。セロー号だと流れに乗るのがけっこう辛いので、さっそく脇道に逸れて林道を目指すことにする。苫小牧から北東方向に30キロほど進んだところにある『炭鉱厚真川林道』(25km:TM 23頁3-F※)がこの旅の最初のダートだ。 |
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※TM=ツーリングマップル(2002年版) 2003年全面改訂版は使いづらく、交差点の行き先地名の表示などの情報が乏しい(さぼっている?)ので結局は使えず終いだった。昭文社のBBSでも相当なバッシングを受けている模様である。来年版で更なる改訂か、元に戻してほしいものだ。 |
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林道に向かう途中でさっそく道に迷うが、GSのおじさんに丁寧に教えてもらった。厚真町は区画整理が進められているそうで地図とは少し違っていた。北海道で人に道を尋ねる時に苦労するのが地名の発音である。とにかく漢字が読めない。厚真と書いて“あつま”と読む。分かってしまえば当たり前の読み方かもしれないけど、倶知安、美唄、弟子屈、音威子府なんて読めないもんねー!さらに書くとなるととんでもない。私に書ける地名は、夕張、帯広、池田町ぐらいしか思い当たらないので(札幌という漢字もおぼつかない)さっそく今夜の宿のある池田町を目指す。 暑くなってきたのでジャケットの下のトレーナーを脱いだ。キタキツネが道路を横切る。GSのおじさんに教えてもらったとおり『炭鉱厚真川林道』の入り口は直ぐに見つかった。深い森の中を走る。浮きジャリがあり少し走りにくいダートだ。「クマ出没注意」の看板があったので、頻繁にセロー号スペシャル(改造)のダブルホーンを鳴らしながら走る。 途中で野生の鹿と出くわす。背丈は私より大きいであろう。お尻が白くていわゆる“バンビちゃん”を大きくしたような鹿だ。突然の遭遇で鹿も私もびっくりしたが、それでも悠然と去っていく2頭の鹿の姿には優雅さがあった。こっちの鹿(セロー)も優雅に疾走したいものだ。 |
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林道の途中でいくつか分岐があり地図には無い道だし、標識も乏しいので悩む。悩んでいてもしかたがないので「さっきは左折したので、今度は右折しよう」という緻密な理論に基づき(どこがじゃ!)ぐんぐん先に進む。どこかでコースを誤ったようだが74号線に出た。しかし、予定の時間をかなりオーバーしている。今夜の宿のある池田町はまだまだ先だ。ペンションのオーナーには18時必着でよろしく!と言われていたので焦り始めた。山に入ると気温がぐっと下がってかなり寒い。まだいくつかのダート走行を予定していたので残念だが、石勝樹海ロード、日勝峠をぬけて十勝清水から道東自動車道で池田町を目指すことにする。なんてことはない、3年前にハヤブサで走ったコースと同じである。やはり1300ccと225ccでは巡航速度が違う。ましてやダートを走っていれば時間がかかるのは当たり前である。18時には間に合わないと判断して、途中の十勝平原SAでペンションに電話を入れて事情を説明した。「ゆっくり来て下さ〜い」という返事だった。あれ?暇なのかな?そうだよな、平日だもんな
などと思いながら、寒さを堪えて片側一車線の道東自動車道を100km/h弱で疾走した。 |
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池田町のペンションHOCおおくまには18時40分に着いた。2度目なので国道からJR利別駅やペンションまでの土地勘が頭に残っていた。ペンションの周りの駐車エリアにクルマが1台も停まっていない。もしや?と思った予感は直ぐ後で的中していることが分かった。 今夜は他に泊まり客がおらず貸し切り状態だった。バイクから荷物を下ろし、 表から階段を上がって2階の入口を入ると、聞き覚えのあるオーナーの声が聞こえた。電話をしているらしい。オーナーは入って来た私に気がついて片手で受話器を持ったままボールペンで宿帳を指し示す。「これに書いて」という意味だろうが、はるばる東京から来た客に対して随分な歓迎の仕方である。かじかんだ手で上手く字が書けない。3年前に一泊しただけの私のことなどオーナーは覚えているわけはないのだが、予約する際にリピーターであることは告げてあった。そのせいか、電話が終わるとオーナーは随分と親しげだった。 「今日は他にお客さんはいないよ。今年は忙しくてね、今日みたいのは珍しいよ。皆さん海外旅行をしなくなってるでしょ、だから新婚旅行やフルムーンのお客さんが多くてね…」 「夕食の時間は気にしなくていいから、先に風呂に入ってくれば。分かるよね場所、あ、部屋はそこの扉ね」 う〜ん、まるで旧友の家を訪ねたみたいで何だか嬉しい。そういえば、私には北海道に住む知り合いがいないのである。以前、親戚が札幌に住んでいたことがあるが、数年前に内地に転勤してしまった。会社関係で札幌に知人はいるが遊び友達ではない。この広くて寒い!大地で身を寄せるところがあったら良いだろうなと思う。 オーナーの言葉に甘えて風呂に入った。もちろん風呂の場所は覚えていたし、3年前に宿泊した部屋を覗いたりもした。大人が3人も入ればいっぱいになってしまう程度の風呂だが、ひとりで入るには充分の広さだ。冷えきった体をしっかりと暖め、さぁ、ステーキディナー・スペシャルコースである。食堂にひとりというのもいささか寂しいと思ったが、その気持ちを察してか(いや、語りたかっただけと思うけど)3年前の展開と同じくオーナーが愚痴やらなんやら語りまくる。2年続けての天候不順(冷夏)で農家が頭を抱えているとか、そんな中でも島田のオヤジはこんなに立派なメロンを生産したとメロンを高々と掲げて見せたり…。 オーナー自慢のタラバガニの刺身を盛りつけた前菜に続き、特上のステーキは口の中でとろけるような美味しさだった。満足である。そういえば、今日は朝からコンビニのサンドイッチとおにぎり1個しか食べていなかった。途中で「樹海苑」というライダーの間では有名なラーメン屋を発見していたのだが、時間に追われて素通りしていた。というわけで、赤ワインをボトル半分も呑んだところですっかり気持ちが良くなってしまった。無事に旅が始まったことや、明日からの期待や、予想していたとおり?にぎやかな話し相手がいたし、それに眠たくなったら10メートル歩いて横になればOKという状況が私を大いに酔わせていた。そして色々な話をした。オーナーは、インターネットや携帯電話によって仕事の仕方が変わってしまったことや、某有名旅行雑誌を見て電話してくる人たちの困った現状などを語りまくった。私も実はケータイ関係の仕事をしているとか、今年はカニはここではなくサロマ湖畔の民宿で食べる予定だと爆弾発言をしたりとか、好き勝手にしゃべっていたと思う。 22時を過ぎてもペンションの電話が鳴る。「■●★を見て電話しています。そちらはインバスですか?」とかいう内容の電話ばかりらしい。インバスとは部屋に風呂付きという意味らしい。確かにオーナーの愚痴るとおりで、22時過ぎにペンションに予約や問い合わせの電話をかけてくるのは非常識に思えた。24時間フロントが稼働している都会のホテルならまだしも、個人経営のペンションと分かっていてこんな時間に電話してくる輩はろくでもないと思った。そんな電話が15分おきぐらいに鳴る。池田町出身の後輩がその旅行雑誌の編集部(の下請け?)にいるそうで、彼(彼女?)に悪くてオーナーは今や宿敵と化している某旅行 雑誌との縁を切ることを躊躇しているらしい。なんとも悩ましい。こんな北の最果てのペンションの電話が深夜まで鳴り続けている実状や、世間一般のモラルの低下や、インターネットやメールが人と人とのコミュニケーションのあり方を変えてしまった事など、互いに思うがままに語り合った。北の大地のこだわりのペンションオーナーが自分流で悠々自適に商売を続けていると勝手に想像していたのは思慮が足りなかったようだ。 酩酊する前に、翌朝は早く発つことをオーナーに言い、オーナーが絶賛するメロン(デザートにも食した)を東京の実家や知人に発送する注文と宿泊代の支払いなど全てを済ましてしまい、美味しい朝食をキャンセルする無念をオーナーに告げてから床に着いたのは23時を少し過ぎていた。 <今日の走行距離:226km> |
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