photo&text  尾原 義則

第一話 一組のグローブから
第二話 地場産業の今
第三話 よみがえる工房
第四話 いざサンプル作成
第五話 欠かせない製品テスト

第六話 工房が再び動き出す
最終話 いったい何が違うのか?

   第一話

 18歳でバイクに乗り出してから、2006年で早くも20年が経とうとしています。 ふと気がつけば、僕も30代後半。いつまでも「永遠の青二才」のつもりなのですが、いつしか「ベテラン」と呼ばれる年齢に達しようとしています。
 でも昔も今も変わらずバイクが好きで、妻子がいる今でも、3台のバイクに囲まれて生活しています。


香川県東かがわ市(旧白鳥町付近)の景色。田園地帯の中に白いビルが点在。そのほとんどが手袋関係の工場であり事務所です。

 香川県東かがわ市は手袋の町。今でも多くの人が手袋に関わる仕事をしています。
 僕は、数年間手袋メーカーのスタッフとして働いてきました。主な仕事は、ライディング用グローブ作り。小さな自社ブランドを付けたグローブの生産管理・営業・商品企画・デザインなど、グローブにまつわる一通りの仕事を経験してきました。また自社ブランドの他にOEM生産もしており、ペアスロープ製グローブの生産管理もしておりました。

 これらのグローブを製作する「大西工房」はキャリア数十年のベテラン職人の工房で、その腕前、そしてその蓄積されたグローブ作りのノウハウは確かなものがありました。かつてその大西工房に製作を依頼したいくつかのサンプルの中に忘れられない逸品があり、今でも大切に持っています。


 材質は鹿革で、革の厚みが平均して1.7mm以上もあるのですが(通常は1mm以下の革)、極めてソフトに仕上がっています。床(裏側)も毛足が長く、はめた感じを例えて言うなら、柔らかいゴムの中に手を入れているような感覚であり、肌触りは高級なムートンの絨毯のような感じ・・・。
材質に加えて優れているのが、その手袋のパターン。革本来の伸びを使って「包まれている」感触を出すために、甲側は大きな一枚革。フィット感を阻害する縫い目をなるべく少なくするようになっています。

手の甲の部分は、言うなれば手袋の顔。傷の少ない良いところだけを選んで裁断していきます。大きなパーツを用いるとそれだけ革の使えない部分も多くなっていきます。


 もし一度はめてみてもらえるなら、たいていの人はこう言うでしょう。「元のグローブには戻れない」と。「そんなに素晴らしいなら、このグローブを作って売れば?」とおっしゃる方も多いかもしれませんが、いかんせんこのグローブは手に通さないと、その良さが解らない・・・。そして革に高いコストを掛けているため、結構高くなってしまいます。それゆえ仮に売り出したとしても、普通では買ってくれないでしょう。

 見た目のインパクトの無さも売れない原因であることは解っているのですが、インパクトのあるものにすると、シンプルなパターンをスポイルしてしまう。でも一つのライディンググローブとして理想の形がここにあるのです。

 素晴らしい皮革と経験豊富なベテラン職人が出会えば、必ず良い物が出来上がる・・・。そして、例え極めてシンプルな外観をしたグローブであっても、機能性・安全性に秀でたグローブなら、いずれ評価して買ってくれる人は増えてくるという確信はあります。

 ただ、「いずれ・・」を待てるならいいのですが、数年以内には日本国内でグローブ作りができないという所まで、地場産業は追いつめられています。
 僕はもし叶うなら、「こんなグローブを作れる環境を残したい」。そんな想いがつのり、会社を退職し、前述の「大西工房」とともに新たな工房を立ち上げることになりました。その名は「ペアスロープ四国手袋工房」。日本製であることの意味・価値をユーザーに提案し続けてきたペアスロープとともに、第一歩をあゆむこととなりました。



[ 著者紹介]
尾原 義則 1968年、香川県高松市生まれ。手袋メーカーを退社後、新しいライディング用グローブを製造する「ペアスロープ四国手袋工房」を立ち上げようとしている。


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