材質は鹿革で、革の厚みが平均して1.7mm以上もあるのですが(通常は1mm以下の革)、極めてソフトに仕上がっています。床(裏側)も毛足が長く、はめた感じを例えて言うなら、柔らかいゴムの中に手を入れているような感覚であり、肌触りは高級なムートンの絨毯のような感じ・・・。
材質に加えて優れているのが、その手袋のパターン。革本来の伸びを使って「包まれている」感触を出すために、甲側は大きな一枚革。フィット感を阻害する縫い目をなるべく少なくするようになっています。
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手の甲の部分は、言うなれば手袋の顔。傷の少ない良いところだけを選んで裁断していきます。大きなパーツを用いるとそれだけ革の使えない部分も多くなっていきます。 |
もし一度はめてみてもらえるなら、たいていの人はこう言うでしょう。「元のグローブには戻れない」と。「そんなに素晴らしいなら、このグローブを作って売れば?」とおっしゃる方も多いかもしれませんが、いかんせんこのグローブは手に通さないと、その良さが解らない・・・。そして革に高いコストを掛けているため、結構高くなってしまいます。それゆえ仮に売り出したとしても、普通では買ってくれないでしょう。
見た目のインパクトの無さも売れない原因であることは解っているのですが、インパクトのあるものにすると、シンプルなパターンをスポイルしてしまう。でも一つのライディンググローブとして理想の形がここにあるのです。
素晴らしい皮革と経験豊富なベテラン職人が出会えば、必ず良い物が出来上がる・・・。そして、例え極めてシンプルな外観をしたグローブであっても、機能性・安全性に秀でたグローブなら、いずれ評価して買ってくれる人は増えてくるという確信はあります。
ただ、「いずれ・・」を待てるならいいのですが、数年以内には日本国内でグローブ作りができないという所まで、地場産業は追いつめられています。
僕はもし叶うなら、「こんなグローブを作れる環境を残したい」。そんな想いがつのり、会社を退職し、前述の「大西工房」とともに新たな工房を立ち上げることになりました。その名は「ペアスロープ四国手袋工房」。日本製であることの意味・価値をユーザーに提案し続けてきたペアスロープとともに、第一歩をあゆむこととなりました。
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[ 著者紹介]
尾原 義則 1968年、香川県高松市生まれ。手袋メーカーを退社後、新しいライディング用グローブを製造する「ペアスロープ四国手袋工房」を立ち上げようとしている。
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